開会挨拶で九条の心ネットワークの羽柴修弁護士は――一年前、学術会議任命拒否の理由に菅首相は憲法十五条(公務員の選定罷免権)で説明したが理由にはならない。この事件は戦前の滝川事件のように今後日本がどういう道をいくかの転換点の議論になるべき問題だ。しかし時もたち、多くの国民は忘れている。戦争への道を進ませないためにも声をあげ続け、政府を監視していかねばならない。今日は当事者の芦名先生に語ってもらい大いに学ぼう――と呼びかけました。
記念講演「日本学術会議問題から平和憲法へ」
記念講演は、芦名定道関西大教授が「日本学術会議問題から平和憲法へ」と題しておこないました。学術会議会員推薦名簿で芦名さんを含め六人の任命を菅義偉首相が拒否したことが「しんぶん赤旗」でスクープされ、各紙が追いかけたが、いまだに首相は任命拒否の理由を「総合的俯瞰点」とするのみで真相は明らかにされていません。芦名さんは「真相がわからないから必要以上に自粛する。国民に忖度を求める政治は正当なのか。この問題の真相究明を決してあいまいにしてはならない」と強調しました。
今回の六人だけではなく学術会議自体が標的だったのではないかと指摘し、二〇一六年に三人の定年退任による欠員補充の際、官邸が難色を示し欠員になっていたこと、共産党の追及で当時の根拠文書が出てきたが事務局長決済も経ておらず公的文書と言えないものだったことをあげました。
日本学術会議は一九四九年設立以来、戦前に科学者が戦争に協力させられた反省から「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」(一九五〇年)を明確にしてきた組織であり、一九六七年各大学に米軍からの研究資金が入っていることが明らかになった時も「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を出し、二〇一七年にも「軍事的安全保障研究に関する声明」を出してきました。
一方、政府は、防衛省、防衛装備庁を設立し、「安全保障技術研究推進制度」(二〇一五年)もつくり、学術研究への介入が増加。
政府にとって軍事研究に反対する学術会議がじゃまになっていると考えると辻褄があうと芦名さんは分析。冷戦終了からアメリカ覇権後退と中国台頭など世界情勢が混沌とするなかで、軍事・科学技術への一層の注目があり、軍事研究が焦点になっている――このなかで今回の学術会議問題をとらえる必要があると強調しました。
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改憲の動きについて芦名さんは、こうした政府の動きだけでなく、下からの動きとして日本会議が地方から一千万署名運動を展開し、地方議会から国に改憲を求める意見書を出させる動きがあることを紹介。
芦名さんは、これに対して平和勢力を下から構築することが必要だと述べて、対立を乗り越えて大きなネットワークが必要だと述べ、「11・3兵庫憲法集会」への期待も語りました。
最後に芦名さんは、地方自治の精神が大事だとし、ヨーロッパで新自由主義のもとでいったん民営化された水道などの公共サービスを再公営化する動きが起こり、平和、教育の分野でも地域で共同が始まっていること、その背景にある「ミュニシパリズム」という思想を紹介し、今後の方向もここにあると述べました。
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参加者からの質問に対し芦名さんは――▽人権意識は近代社会で勝ちとられたもの。個々人がばらばらにされた社会で、どうやって共同をつくりあげるか。入口は要求ではないか▽コロナ禍のなか、保健所統合が問題になり、「統合するな」などの取り組みが起こっている▽情報は国民には伝わりにくい。マスコミが伝えてないから。マスコミは政権の意思を伝えるものになっている▽京都でも立憲と共産の共闘への努力がある。市民が様々な運動で政党をつなぐ努力もしてきた。つなぐ役割としての市民の役割がある――などと答えました。