八月五日に兵庫の最低賃金審議会は、兵庫労働局長に兵庫県の最低賃金改定について答申を出しました。
現在の九百円を中央最低賃金審議会の示した目安どおり二十八円を引き上げ、九百二十八円とするというものです。
昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、兵庫県では一円の引き上げ額にとどまりました。私たち全労連・兵庫労連の要求は、「今すぐ千円に、さらに千五百円に引き上げる」というものです。全労連が各都道府県で行っている最低生計費試算調査によると「ふつうの暮らし」を続けるには、どこでも時給で千五百円以上が必要だとの統計結果が出ています。国の方針でも早期に千円に引き上げるとしているように最低賃金の大幅な引き上げは必要なものです。また、中小企業などへの支援拡充や使いやすい支援制度の整備・創設も合わせて実現していくことも重要です。
毎年の中央・地方の最低賃金審議会の答申の中でも、中小企業支援を求め続けていますが、コロナ禍にあってさらに中小企業への支援はスピードと拡充が必要です。
最低生計費試算調査の監修をされている中澤秀一准教授(静岡県立大学短期大学部)は「私たちは経営者に要求しているのではありません。政治に対して中小企業が賃上げできるよう支援策を講じることを要求しているのです。」と述べています。
兵庫労連は、八月二十三日に行われる審議会に異議申し立て、意見陳述を行う予定にしていますので、最低賃金を引き上げる必要性と、審議会は答申を出しっ放しにせず、中小企業支援策についての回答を求めるよう訴えます。
引き続き大幅最賃引き上げ・全国一律最賃に向け運動を強めましょう。
〔岡崎史典=兵庫労連〕
〈資料〉最賃審議会での成山議長の陳述
兵庫県最低賃金審議会で兵庫労連の成山太志議長が七月二十八日に行った陳述(十分間)を紹介します。(小見出しは編集部)
中央審議会の目安である二十八円の引き上げに留まらず、早期に千円をめざすという政府の方針に沿って、また兵庫県の場合は、東京との百十三円の格差、大阪との六十四円の格差を解消するために大幅な引き上げを求めます。
私の出身は、労働組合は郵政産業労働者ユニオンという郵便局の労働組合です。
二千時間働いても年収二百万円
郵便局では現在、全国で約四十万人の労働者が働いていますが、半数の約二十万人が非正規雇用労働者です。私が働いていた神戸中央郵便局では、現在約千二百人の労働者が働いていますが正社員は三百五十人程度、七割以上が時給制の非正規雇用となっています。朝九時から十七時までの日勤帯で内務作業を行っている非正規雇用労働者の場合、時給額が六段階あって一番下が九百二十円です。半年に一回の管理者の評価によって上がったり下がったりしますが、最高でも千八十円。何年働いても千八十円以上には上がりません。フルタイムで年間二千時間働いても年収は二百万円にしかなりません。大企業である日本郵便が、生活ができないような低賃金で雇用していることに社会的責任が問われますが、同時に最低賃金の大幅引き上げによる賃金の底上げが切実に求められています。
一九九五年に当時の日経連が出した「新時代の日本的経営」に基づいて、終身雇用で賃金が右肩上がりの正社員が減らされ、賃金が時給制で不安定な非正規雇用労働者に置き換えられてきました。今や日本の労働者の約四割が非正規雇用労働者となり、全国の労働者約五千五百万~五千七百万人のうち二千二百万人以上が非正規雇用、そのうちの千百万人以上が年収二百万円に満たない働く貧困層、いわゆる「ワーキングプア」となっています。
日本経済沈滞の原因
その結果、一九九七年を頂点に、日本の働く人の実質賃金が下がり続けています。非正規雇用労働者の多くが、まともな生活を展望できない、結婚できない、子どもを育てられない、親の老後の面倒を見られないという問題に直面しています。そして同時に、日本経済が成長しない、日本経済を停滞させていることに直結する原因となっています。
私たち「兵庫労連」は、「雇用は正社員があたりまえの社会」をめざすと共に、たとえ非正規雇用であっても誰でもどこでもどんな仕事をしていても「フルタイムで働けばまともに暮らせる社会」にしようと訴え、活動しています。それは労働者一人一人の生活を守るということと同時に、日本経済の立て直しのためにも不可欠だからです。
まともに暮らせるとは
「まともに暮らせる」という、「まともな暮らし」とはどんな水準かという問題がありますが、この間、全労連では各県労連で最低生計費調査というものを行っています。二十五歳独身一人暮らしをモデルに持ち物調査などのアンケート調査を行い、七割の人が持っているものは持っていて当然との考えで、生活費をはじいたところ、どこの府県でも、都市部と地方の違いなく一カ月に二十三万~二十四万円が必要との結果が出ています。時給に換算しますと千五百円~千六百円程度となります。都市部と地方の違いが無いのは、都市部は家賃が高いですが、地方では車が無ければ生活できず、住宅費と交通費が相殺されて、生活費には金額的に違いはないということになっています。したがって最低賃金は都道府県別ではなく全国一律が望まれます。
二十八円はまだまだ低すぎる
今回、中央の目安が、三一%、二十八円の引き上げと出ましたが、昨年が全国平均で一円の引き上げに留まったことを考えると、また政府も二〇二〇年までに千円への引き上げを掲げていたことからも、冒頭にも言いましたが、二十八円はまだまだ低すぎます。特に兵庫県は全国平均を下回っていますので二十八円に上積みをして東京や大阪また京都などとの格差を解消しなければなりません。
世界の先進国と比べて極端に低すぎる
それから、日本の最低賃金は世界の先進国と比べて極端に低すぎるということも強調しておきます。ヨーロッパ諸国ではフランス・イギリス・ドイツでは(日本円換算で)千二百円から千三百円の水準です。アメリカは州平均ではすでに千円を超えており、その上にバイデン政権は全国最賃を十五ドル(千六百円)に引き上げると掲げています。
韓国では、今年も五%の引き上げで、来年一月から九千百六十ウオンへ、ウオンは円のだいたい十分の一ですから、九百十六円です。韓国の最賃は全国一律でその上に、韓国には韓国独自の週休手当という制度があり、週五日四十時間働くと四十八時間分の賃金が支給されます。そうしますと二〇%増しの賃金を受け取れますから、韓国の最賃は実質的には完全に日本の最賃を上回っています。韓国が最賃制度を実施したのは一九八八年です。時給四百九十ウオン日本円で約四十九円から、当時の兵庫県の最賃は四百九十円でしたから、三十三年前に十分の一の最賃から出発した韓国に、三十三年間で追い抜かれる、これが今の状況です。
この間、日本は、賃金が下がり続ける国、労働者が年々貧しくなる国となって、そのことによってGDPが縮小する国、経済成長しない国となり、世界でも唯一の特異な国になってしまいました。喫緊の課題は、労働者の賃金の引き上げ、とりわけ賃金の底上げです。
最賃ぎりぎりで雇っているのは大企業
最後に、最賃引き上げに反対する論拠として、兵庫県では、但馬とか淡路島など地方の企業や、また中小零細企業には体力がない、だから最賃引き上げに耐えられないという問題が出されます。しかし、私は淡路島の知人から「淡路島では最賃ぎりぎりで求人しているのはイオンなどの大手のスーパーなどで、中小企業は人手不足という背景から割と高い時給で募集している」と聞きました。「最賃を上げれば地方が大変」「中小企業が大変」と決まったように言われますが、最賃ギリギリで人を雇っているのは、郵便局もそうですが、体力があるのに人件費を削って儲けたいと非正規化を進めてきた大企業なのではないでしょうか。
中小企業支援策を労使一体で国に求めよう
とは言っても、本当に経営が苦しい中小企業もあるだろうとも思います。したがって最賃の引き上げのために、中小企業に対する様々な支援策を国に求めていくべきです。ヨーロッパや韓国、アメリカでも最賃引き上げに際しては中小企業への様々な直接支援が行われています。経営が苦しいから最賃は上げられないではなく、上げるためにはどうすればよいのか、最賃を上げるためにはこういう支援が必要だと労使一体で国に求めて下さい。以上です。
(兵庫民報2021年8月22日付)15:30