2021年7月4日日曜日

兵庫の地学散歩……大地を科学する:第一回 活断層上に建つ新神戸駅と神戸の風景:觜本格(かがく教育研究所)


トンネルの小窓

山陽新幹線の新大阪から西明石までの距離は六十㌔㍍。乗車時間二十一分のうち、電車が地表を走るのは数分に過ぎない。新大阪を出発した「のぞみ」は武庫川を渡ると六甲トンネルに入り約十六㌔㍍を走り、次に地表に顔を出すのは新神戸駅である。「のぞみ」はまたすぐに神戸トンネル(八㌔㍍)に入り、次に本格的に地表の風景を見るのは神戸市西区である。
山陽新幹線は神戸市内では六甲山地を縦断し、大部分を地下のトンネルで貫いている。新神戸駅はトンネルに開けられた小さな小窓である。トンネルの着工は一九六七(昭和四十二)年。激しく風化した花こう岩からなり、多数の断層が縦横に走る六甲山地を縦断する工事は難航を極めた。断層破砕帯に当たると大量の水が噴出し、岩盤が崩れ落ちる。水を抜き薬液で固めながら進んだトンネル工事が完成したのは四年後の一九七一年だった。

市民に親しまれる景勝

「布引の滝のしらいと なつくれば 絶えずぞ 人の山ぢ たづぬる」
(藤原定家)
新神戸駅の地階から出発し、市ケ原に向かうハイキングコースで真っ先に出会う歌碑である。コースに沿って、この先にある「布引の滝」を詠んだいくつもの歌碑がある。
多くの中世の歌人や平清盛も訪れたという布引の滝。六甲山地を南北にほぼ横断するように流れてきた生田川が平野部に注ぐ手前にある雌滝、鼓ヶ滝、夫婦滝、雄滝の総称で、那智の滝、華厳の滝と並ぶ日本三大神滝として知られている。市街地から徒歩で十分~三十分で行ける景勝として市民に親しまれている。生田川の深い谷と連続する滝の風景は花こう岩の岩盤と水の侵食作用がつくりだしたものである。

断層に沿って流れる川

山道に入ってすぐのところにある砂子橋を渡るとハイキングマップなどの各種の案内看板とともにステンレス製の看板がある。設置者は神戸市建設局公園砂防部森林整備事務所。「断層に沿って流れる川」と題して橋の下を流れる生田川が断層に沿って流れているという説明が記載されている。
雌滝から南に流れてきた生田川は砂子橋の西百㍍の地点で急に流れを東に変える。流れの方向に断層があるからである。橋から東を向いて下をのぞくと、その断層を見ることができる。
断層は岩盤や地層が破壊されて、ずれ動いたところであり、「断層破砕帯」や「断層粘土」ができ、その部分が弱線となって掘り込まれ、川が流れる場合が多い。この断層は神戸でも有数の大断層である諏訪山断層に沿ってできた副次的な小断層だと考えられる。諏訪山断層は神戸の市街地と六甲山地の境界を区切るように伸びる活断層である。

諏訪山断層は活断層

諏訪山断層が新しい時代に活動した活断層であることを示す露頭が見つかったのは一九七〇年、山陽新幹線の建設工事現場であった。移転前の布引中学校の敷地で、現在の新神戸駅の西の端にあたる場所である。山側の花こう閃緑岩の岩盤に扇状地堆積物の砂礫層が断層粘土を挟んで接している。堆積物は少なくとも一万年前以降のものであり断層活動が続行していると判断された。この断層の露頭が発見された当時、新神戸駅の設計は完了していた。国鉄は急きょ、鉄道技術研究所の技術者と長年六甲山地の研究をして来た大阪市立大学の藤田和夫教授など専門家を招いて対応策を練った。
相談の結果、完成していた駅の設計図を破棄して、断層が動くことを想定し、水平変位と垂直変位があっても位置を修正できるような設計に改めた。
一九九五年の兵庫県南部地震で諏訪山断層は地下の深い場所で変位があった可能性が高い。しかし、野島断層のように地表に変位が現れる「地表地震断層」とはならなかった。
新神戸駅は活断層上の構造物として、実験的な意味をもっていた。幸いにも地震での被害は軽微であった。しかし、もし諏訪山断層が地表部で動いていたら、新神戸駅はどうなっていただろう。

大地を知ることは命を守ること

阪神・淡路大震災が発生する前に、神戸と阪神間の市民の多数は「関西では大きな地震は起こらない」と思っていた。または、「地震のことを考えたこともなかった」と言う人も多かった。「神戸に大地震を起こす活断層があることは知っていた」と言う人はほとんどいなかった。
六甲山地の山々が北東―南西方向に連なり、そこから何本もの小さな河川が大阪湾に注いでいる。神戸の市街地は、これらの河川が六甲山地から土石流として運び出した土砂がつくった平野に位置している。その平野と山地の境界は見事に明瞭なアーチを描いている。この境界こそが大地震をたびたび起こしながら六甲山地を隆起させてきた典型的な活断層の地形である。
この風景を読み解く学力が求められている。私たちが住む大地を知ることは命を守ることにつながる。自然災害が多発する時代にあって、防災・減災の視点もからめて兵庫県の身近な風景を科学的に読み解く「地学散歩」を何回かに分けて連載しようと思う。
〔元神戸市立中学校理科教員・元神戸親和女子大学教授〕
(毎月第一週号に掲載)

(兵庫民報2021年7月4日付)
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