2021年5月30日日曜日

論点詳論「神戸市による自衛隊に対する個人情報提供問題について」神戸学院大学法学部教授 福嶋敏明


二〇二〇年二月十日、神戸市は防衛省と「募集対象者情報の提供に関する覚書」を締結しました。その結果、神戸市は、毎年、自衛隊に対して、自衛官募集対象者となる市民の氏名、生年月日、性別、住所を電子データによって提供することになり、すでに自衛隊に対する市民の個人情報の提供が始まっていますが、この問題は、憲法が保障する個人の権利、さらには市政のあり方にとって深刻な問題を投げかけるものです。
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日本国憲法十三条は、一般に、自己の情報をコントロールする権利を個人に対して保障しているものと理解されています。市の保有する個人情報に対してもこの権利の保障は当然に及び、市が市民の個人情報を外部機関に提供するためには本人の同意を得ることが原則となり、本人の同意のない提供を行うためには明確な法律上の根拠が求められ、適正な手続きを経る必要があります。
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しかし、今回の神戸市による自衛隊に対する個人情報の提供は、明確な法律上の根拠もなく、適正な手続きも経ずに行われた疑いがあります。
神戸市は今回の提供の根拠として自衛隊法九十七条などの規定を指摘しますが、この規定は自衛隊に個人情報を提供する根拠にはならないと判断した自治体もあります。
また、条例の規定に基づき外部の有識者等から構成される個人情報保護審議会などの機関の意見を聴いた自治体もありますが、今回の提供に際して神戸市は神戸市個人情報保護条例の定める個人情報保護審議会に諮問するという手続きを行っていません。
さらに、本人の申し出に基づき自衛隊に対する個人情報の提供を行わないという措置を講じる自治体もありますが、神戸市はこうした措置を講じようともしません。
このように神戸市の対応は、他の自治体と比べても市民の個人情報保護に消極的であり、憲法十三条が保障する個人の権利を尊重したものとは到底言うことができません。
しかも、神戸市は、自衛隊に対する個人情報の提供について市民に積極的に知らせようともしていません。自治体の中には自衛隊に対する個人情報の提供についてホームページなどを通じて情報提供を行っているところもありますが、神戸市は市議会における答弁などを通じてこの件について市民に広く知らせることを頑なに拒む姿勢を示しています。このような神戸市の姿勢は、憲法十三条による個人の権利の保障だけでなく、市政に関する重要な情報は市民に知らせなければならないという地方自治の原則に照らしても大いに問題があると言わなければなりません。
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市の保有している個人情報は私たちひとり一人の市民のものであり、また市政は私たち市民の負託により行われているものであるという原則をしっかりと確認し、私たちはこの問題に向き合っていかなければならないように思います。

(兵庫民報2021年5月30日付)