兵庫県商工団体連合会会長 磯谷吉夫
兵庫県下には二十一万四千の事業所があり、そこで二百二万三千人が働いています。その内、従業者数三十人未満の小規模事業所が九四%を占め、雇用の上でも半数を支えています。兵庫県の地域社会・経済はこうした中小商工業者の営みによって支えられています。
兵庫県議会は二〇一五年十月、「中小企業振興条例」を全会一致で可決・成立させました。前文では、「地域ぐるみで本県の中小企業の振興、とりわけ小規模企業の振興に県が先頭に立ち積極的に取り組む事を決意し、この条例を制定する」としています。
この中小企業振興条例は、県政全体を貫く理念条例として、様々な施策を立案する際に、こうした視点でもって検討されるべきものです。
しかし、兵庫県政のこの分野での取り組みは遅れています。
兵商連は毎年秋に、兵庫県各部局と中小業者への支援策を要望する交渉をしており(写真は2019年11月、産業労働部長との懇談:右から2番目が筆者)、その重要項目のひとつに、兵庫県住民リフォーム助成制度の創設があります。
これは、市民が住宅のリフォームをする際に、自治体が一定額を補助する制度で、住環境の改善と中小業者への仕事起こしにつながり、地域経済に大きな波及効果のあるものとして全国で約六百の自治体が実施している施策です。
しかし、昨年の回答は、「基本は自助・共助・公助の考えであり難しい」というものでした。
*
外需頼みの経済と消費税の相次ぐ増税が、地域経済の衰退を招き、感染症対策の支援制度の貧困さとも相まって、中小業者の生業は重大な危機に瀕しています。
県下の中小業者からは、悲鳴にも似た声が寄せられています。
「席数を減らして消毒しても、会社から外食は八時迄と言われていて、お客さんが来ない」(神戸市・スナック)
「一月から仕事のキャンセルが入り始め、現在の売上は昨年の一割くらい。集まってはいけない風潮の中、単価を上げるか、仕事を変えることも考えなければならない」(音響システム)
「一月から軽貨物運送を始めたが、得意先がコロナの影響で激減し四月以降請け負っていた仕事がなくなった」(運送)
五月二十五日の「緊急事態宣言」解除ひと月後の調査では、前年同月に比べて売上減が七四%(前年同月比)であり、その内四〇%が五割以上減との回答をしています。
この状況は、現在もほとんど変わらず、持続化給付金などで何とか資金繰りをしてきたが、次の支援がなければ、年末には大量の廃業がでると予想されます。
*
こうした中、井戸知事は見過ごすことのできない発言を繰り返しています。
八月八日に開かれた全国知事会の中で、対策を取らずに感染者が発生した飲食店について、「食品衛生法では、食中毒を起こした店は営業停止になる。指定感染症のコロナでも同様の制度に置き換えるべきだ」と主張しました。
兵庫県は、飲食店の感染症対策の補助金を設けていますが、国が抜本的な検査体制を放棄している中で、飲食店が防御策を講じても、感染者を出してしまう可能性は残されます。
そのことを踏まえないで、一方的に「営業停止」などの発言は、知事として絶対に行うべきではありません。
また、安倍首相が辞任表明した八月二十八日には、「アベノミクスで景気の回復基調を実現し、積極的な外交で東京五輪を誘致した」と、実績なるものを評価しています。
アベノミクスの二つの「三本の矢」の裏で、二度にわたる消費税増税が軍事費の財源として強行されました。
消費税一〇%増税による、経営悪化は、兵商連が半年に一度行っている経営調査でも明らかです。
「一九年十月~二〇年三月の売上」は、前期(一九年四月~九月)に比べて「減少」が四六・二%、であり、次期の見通しも「減少」が六九・五%となっています。
こうした中、首相の諮問機関・政府の税制調査会は、財政悪化の対応で、「消費税増税を中核に据えた、骨太の議論が必要」などと論議しています。
一方、政府は、業績が悪化した大企業の支援へ法人税減税を検討すると、マスコミは報じています。
兵庫県政は、全国二位の高速道路網の推進、ホテルなどを誘致する県庁舎建替え、但馬空港の滑走路延長などの大型開発を推し進めています。一方、社会保障費は削減し、病院・県営住宅などの廃止・縮小を進めようとするなど県民生活切り捨ての姿勢は明らかです。
中小業者は、住民自治と循環型経済の「地域再生」の中でこそ、生きる道を見出すことができます。
住民の命とくらし、地域経済を守るという自治体本来の役割を果たす兵庫県政の実現が求められています。
(兵庫民報2020年11月1日付)