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2020年2月2日日曜日

観感楽学

私の祖母は明治九年生まれ、亡くなってすでに五十年余が過ぎるが大の相撲好きだった▼祖母が相撲ファンになったのは、近所に住む親戚を訪ねてやってきた相撲取りの姿を見てからで「世の中にこんな大きな男がいるのか」と腰を抜かすほど驚き、以来、この相撲取りの出世を見たいと応援するようになった▼凛々しい顔立ちに太い眉毛ともみあげが見事な力士の名は「米川文敏」といい、祖母は「米やん」と呼んでいた。力士は順調に出世し十両になり新聞に小さく名前が出るまでになった。そしてついに幕内力士になった時、祖母は竈で飯炊きをしながらラジオの実況を聞き、勝った勝ったと喜び「米やんは必ず出世する」と自分の子のように自慢した。この時、祖母はすでに八十歳近くなっていた▼米やんはさらに出世し、名前を「朝潮太郎」に変え、ついに大関・横綱へと昇りつめた。栃錦と若乃花が人気を二分していた時代だが、我が家では「朝やん」と呼んで家族みんなで応援していた。相撲でも野球でも、スポーツは自分ができなくても見たり聞いたりして楽しみこころを躍らせる▼ところで今場所、大相撲は、誰も予想しなかった幕尻の力士「徳勝龍」が優勝した。百八十キロを超える巨漢が土俵上で顔をくしゃくしゃにして泣く姿にもらい泣きしそうになった。思えば戦中、力士も野球選手も戦地に向かい命を落とした。こうしてスポーツを楽しめるのも平和なればこそだとしみじみ思う。(D)

(兵庫民報2020年2月2日付)

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