『人形の家』は、ノールウェーの作家イプセン(一八二八年~一九〇六年)が一八七九年に発表した作品で、とりわけ、最終場面が、当時の社会に与えた衝撃は大変なものであったようです。
今回の舞台では、台詞の一部分を歌に変えて、原作にないアンサンブル(合唱隊)を加えて、劇世界を拡げているのが特徴です。そして、演出の西川信廣の社会や人間を見つめる深い心と、台詞の一部分を歌に変えたことで、近代劇が現代に見事甦える楽しみな舞台です。
ノーラは、夫へルメルと三人の子供たちと暮らしている。子供たちは、ノーラを慕い、ヘルメルは〝人形〟のように彼女を可愛がっている。しかし、ノーラは秘密を抱えていた。ヘルメルが重病を患い転地療養が必要になり、その費用を工面するために借用者のサインを偽造していた。その費用を借りた相手が、クロクスタだった。
クロクスタは、勤務態度が悪くて銀行を解雇されかかっていた。その銀行の頭取にヘルメルが就任する事になっている。ノーラの前に現れたクロクスタは、懇願する。解雇を取りやめるようヘルメルに頼んではくれないか。だが、ヘルメルは耳を貸さず、解雇されたクロクスタは秘密を暴露する。
問題は、ノーラの友人のリンデ夫人の助けで解決をする。歓んだヘルメル、ノーラをまた〝人形〟のように愛しながら家庭を営める。その態度に、ノーラは、ついに、家を出る決心をする…。
今も人間が人間として扱われていない現実の中で、ノーラが取った行動を考える必要がある舞台です。
―小谷博子
俳優座劇場プロデュース公演『音楽劇 人形の家』
作=ヘンリック・イプセン 翻訳=原千代海 演出=西川信廣 作曲・音楽=上田亨 出演=土居裕子、大場泰正、畠中洋 ほか/①10月10日(木)18時30分②10月11日(金)13時30分②10月12日(土)13時30分/神戸文化ホール中ホール/会員制(入会時に入会金1,000円と月会費2カ月前納)、月会費3,500円(大学生2,000円、中高生1,000円)/Tel. 078‐222‐8651、Fax078‐222‐8653
(兵庫民報2019年9月22日付)