神戸市とTRANS-KOBE実行委員会が、「あいちトリエンナーレ2019」の津田大介芸術監督をまねき開催する予定だったシンポジウムの中止を八月九日に決めた問題について考える集会を、兵庫県憲法共同センターと市民デモHYOGOが八月三十一日、神戸市勤労会館で開き、百六十人が参加しました。
中止されたシンポジウムは、神戸市と実行委員会の主催でこの秋に開かれる「アート・プロジェクト KOBE 2019:TRANS-」のプレ企画として八月十八日に予定されていた「2019年―2020年、アートは異物を受け入れるのか」。
集会では、味口としゆき市議(日本共産党)と、あわはら富夫市議(つなぐ)の経過報告、立命館大学の伊藤健一郎講師のスピーチが行われ、参加者からの意見交流も行われました。
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味口市議は、日本共産党神戸市会議員団がシンポ中止撤回を求め二度にわたり申し入れた際、市が「脅迫はなかった」こと、久元喜造市長は情報収集を指示しただけで表現の自由を守るための積極的な対応をしていなかったことを認めたと報告。
さらに、二〇〇一年に議員立法で成立した「文化芸術基本法」の制定過程で前文に「文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し」と明記されたことを紹介し、文化施策の原則である「アームズ・レングスの原則」(注)を踏まえ、行政や政治家の介入を許さないことを求めていくと述べました。
あわはら市議は、新社会党兵庫県本部が市民三十人とともに市と文化振興財団に抗議の申し入れを行ったことなどを報告。シンポ中止は津田氏の考え方を排除したものだと批判し、思想および良心の自由を侵してはならないとする憲法十九条の立場でも追及していくと述べました。
伊藤氏は、各地のヘイトスピーチで対抗してきた経験などを語りました。
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意見交流の中で、川元志穂弁護士は、憲法二十一条が保障する表現の自由には、個人の自己実現に加えて、国民の自己統治――政治的な意見を政治に反映させ、民主主義を健全に運営するために特に尊重される――という価値があると指摘。芸術家が政治的発言を控えることはこの点から違和感があると述べました。
「あいちトリエンナーレ」についての河村たかし名古屋市長、松井一郎大阪市長らの発言は、国民の表現の自由を保障すべき公務員とは逆の立場のものだと指摘しました。
さらに、表現の自由に制限が加えられるのは公共の福祉――人権どうしの衝突を調整する最低限度の措置だけだが、神戸市のシンポジウム中止は、脅迫もなく必要最低限の措置とは言えるのか疑問だと批判しました。
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また、他の参加者からも、「同じく津田氏を招いた瀬戸内国際芸術祭の企画は中止されておらず、神戸市の中止は危機的」「歴史修正主義とのたたかいでもある」などの発言がありました。
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集いは、アピール「だれもが、自由に表現ができ自由にそれを受けとることのできる街にしよう」を採択し、市と実行委員会にシンポジウムのやり直しを求めるとともに、市民にも「そんな神戸をとりもどしましょう」と呼びかけました。
注 「arm's lengthの原則」=芸術と行政が一定の距離を保ち、援助を受けながら、しかも表現の自由と独立性を維持すること。
(兵庫民報2019年9月8日付)