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2019年6月16日日曜日

映画『空母いぶき』:統一できない三つの感想

副島圀義

五月三十一日、朝日新聞に映画『空母いぶき』(監督=若松節朗、原作・監修=かわぐちかいじ)の全面広告が載りました。「平和の尊さを実感する作品です」との触れ込みですが、自衛隊の美化につながるのでは、との「あぶなさ」を感じ、映画館に足を運びました。

F35B搭載の攻撃型空母「いずも」「かが」への危機意識の緩和に?

安倍政権の軍拡路線のなかで、ヘリ空母「いずも」「かが」を改修して短距離離陸・垂直着陸可能なF35Bを搭載する攻撃型空母にする計画が進んでいます。先日の日米首脳会談では、両首脳が「かが」に乗艦して米軍と自衛隊を「閲兵」することまでやりました。
このような時に、「いずも」「かが」をモデルにした「空母いぶき」や、安倍首相が爆買いした「F35」がモデルのステルス戦闘機「F36」が、「日本を守るために大活躍する」のです。この映画が、安倍軍拡への危機意識を緩め、鈍らせる「あぶなさ」は「やはり」です。子ども連れの若い世代も観ていました。

「もし日本が侵略されたら」というが~

映画では、〝三年前にできたばかりの架空国家による海上保安庁巡視艇への攻撃と日本の島の占領〟という侵略行為に、「いぶき」を旗艦とする護衛隊群が立ち向かいます。自衛隊の勇敢・たくみで冷静な反撃と、政府の必死の外交努力によって敵を撤退させるわけです。
「攻められたらどうするんや?」……。改憲反対の訴えでしばしばぶつかるこの「疑問」そのものを前提にした映画なのです。しかし「起こるかもしれない危険」に備えるのもいいけれど、現に起こっている事態にどう臨むのでしょう。私はいつも思います。
今の日本はアメリカに侵略されているんじゃないのですか? 在日米軍が国土を踏みにじり、日本国民の生命、財産も奪っている「この現実」に対して、どう立ち向かうのですか?
「米軍基地の返還や米兵犯罪の根絶のために、自衛隊に防衛出動を命じる」のでしょうか? まさか……。

「戦争放棄」「国連による集団的安全保障」へのこだわり、「アメリカに守ってもらう」スタンスの拒否か?

映画では、自衛隊と架空国家の軍隊との戦闘がCGを駆使して描かれますが、「戦闘を戦争にさせない」「外交交渉に影響する戦闘は極力回避」「敵にも極力人的被害を与えない」「捕虜虐待はしない」等々、「抑制的な実力行使のスタンス」が貫かれます。
首相は閣僚の一員の跳ね上がりに対して「いくさと言うな」とくぎをさし、記者会見でも「交戦権の行使ではない。自衛のための最小限の実力行使であって戦争ではない」と強調します。
この映画を作った人々は「憲法九条のもとでの自衛のための最小限の実力組織」とは「このようにあって欲しい」と願い、「自衛隊の現実」ではなく、「理想の自衛隊」を描こうとしたのかな、とも受け止められる作品でした(エンドロールにもパンフレットにも「協力 自衛隊」の文字は出てきません)。
またこの映画には、在日米軍も「日米同盟」も、まったく登場しません。「日本が侵略攻撃を受けたから」と言って、政府も自衛隊も「米軍の出動を要請する」ということをまったくしないのです。首相や外相が必死になって国際社会に訴える場面では「アメリカだけ」ではなく、まずは国連、そして安保理の常任理事国、全理事国なのです。

この「三つの感想」を、「統一的な作品論」として語ることが私にはできていないのですが、ご覧になった方はどんな感想をもたれたでしょうか?

(兵庫民報2019年6月16日付)

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