金田峰生(党国会議員団兵庫事務所長)
養父市の広瀬栄市長が特区として「オンライン医療」導入を提案しています。
「オンライン医療」とは、スマートフォンなどのテレビ電話機能を使い、在宅のまま受診から薬の受け取りまでできるようにするというものです。
ただし、診療部分はすでに今年度の診療報酬改定で、「オンライン診療料」等が導入されていますので、今回の養父市提案は、投薬と服薬指導もオンラインで行えるようにする規制緩和が主な中身です。
厚生労働省は、「薬剤師による対面での服薬指導義務の特例として、①離島、へき地に居住する者に対し、②遠隔診療が行われ、③対面での服薬指導ができない場合に限り、④テレビ電話による服薬指導(遠隔服薬指導)を可能とする」としていますが、養父市長は全市域での実施を主張。厚労省との折り合いはついていません。また、オンライン服薬指導希望者はおらず、薬局の登録も確認できていません(七月現在)。
広瀬市長は、「医療機関や薬局への移動手段が少なく、不便を訴える声が強かった」「同じ薬をもらうために毎回通院し、薬局に足を運ぶ手間が省ける」「慢性疾患を抱える患者の中には、遠隔診療や服薬指導が充実していないため、治療を中断してしまう人も多い」「重症化の進行を抑えれば、年間一億円超の医療費削減につながる」などと説明しています。
しかし、不便を訴える声は「医療機関を確保して欲しい」という要求であって、オンラインを望む声とはいえません。
また、オンライン診療は三カ月に一回通院が必要です。その時に三カ月分の投薬・服薬指導を受けることができ、わざわざ投薬と服薬指導をオンラインで受けるメリットはなく、対面でない分、リスクが高まります。
対象は慢性疾患のみで、例えば眼科や整形外科などは対面です。
重症化を抑えるためには、「せめて一カ月に一回の診察を」と言われています。中断は経済的理由が主です。聴診や触診などができないオンライン医療が重症化抑制に効果的とはいえません。
医師や看護師は、一日の診療が終わった後、「オンライン診療」に向かうこととなり、過重労働につながります。
国民は必要な時に必要かつ最良の医療を受ける権利があり、その具体化として医療へのフリーアクセス権が保障されているべきです。
これに照らして、本来は医師を配置し、訪問診療・訪問看護も含めてフォローするべきであり、オンライン医療は何らかの原因でそれが不可能な場合の一時的導入に留めるべきでしょう。この点で広瀬市長の「養父市全域適用」という主張は不適切です。
今回の提案は、三井物産との共同で「近未来実証特区」の提案です。提案動機が、現場のニーズではなく、企業の利潤追求にあるとの懸念は払拭できません。
広瀬市長の「遠隔服薬指導特区事業」提案は、国保診療所の廃止、医療機関確保努力の放棄など地域医療破壊・医療予算の削減と、医療費を企業の利潤にあてる危険性が強く、自治体の本旨にも背くものです。
提案は撤回し、八鹿病院を中軸とした医師確保と地域医療機関の維持・拡充にこそ力を入れるよう強く求めます。
(兵庫民報2018年8月12日付)