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2018年10月7日日曜日

書評『続暴圧に抗して』戸崎曽太郎・田中隆夫共著

草の根の人々の闘い地道な史料研究で描く

平野喜一郎(三重大学名誉教授)


期待されていた『続 暴圧に抗して』が刊行された。正編に続く、兵庫県下の弾圧犠牲者の物語である。今回とりあげられた人々は、著名人が正編ほど多くない。評者も読者も初めて知る名前が多いだろう。しかし、それだけに、社会の目立たぬ場所で闘ってきた、いわば、「地の塩」のような人々である。社会の草の根のところで、社会の腐敗を防ぐ塩の役目を果たす人々である。
労働運動家が多いのは、神戸で最初に大規模な歴史的労働争議があったからであろう。一九一八年の自然発生的な米騒動の三年後の、組織的な三菱・川崎の労働争議である。敗れたとはいえ、その影響力の大きさが理解できる。また、その後の海員組合の闘いが多いのも、港町神戸の闘いだとおもわせる。他府県に比べて、これが本書の特徴だろう。
もちろん労働運動の活動家ばかりでなく、農民運動、学生運動、文化運動、宗教運動で闘った人々もとりあげられている。
本書は、第一部 労働運動の弾圧犠牲者、第二部 学生・文化運動の弾圧犠牲者の二部から成る。
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第一部は「不屈」兵庫県版に連載されたものであり、字数制限により、一人について二ページである。必要なことがぎりぎりの字数で書かれるため、一見、「人物事典」のようにみえる。しかし、それ故に必要な事項が選ばれた言葉で書かれており、冗長さや無駄がない。史料がよく分析され、基本的な事実が鮮明に記述されている。また、読者の想像力によって運動の全体を展望することができる。
たとえば、戦後、豊岡市長になった橋本省三である。三・一五の弾圧で再検挙され、服役していた。「郷里の区長などがよびかけた減刑嘆願書が提出され、区長らが身元引受人となり、一燈園に入る名目で仮釈放となる」。これだけの叙述で、橋本の人柄、彼を支えた人々の熱い思いがつたわってくる。
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第二部は、第一部とちがって、西村欣治郎と須藤五郎が、それぞれ十ページ以上にわたって語られ、読み物として充実している。
西村は関西学院学生で、学生・文化運動で活躍したが、二十九歳で獄死した。彼は著名な脚本家・久板栄二郎の影響でマルクス理論に近づいた。久板は「戦旗」をひろめるため、関西に長期滞在していた。西村は哲学者・戸坂潤や梯明秀からも高く評価された、優れた哲学学徒であった。彼の志は友人草野昌彦らに受けつがれた。
須藤五郎は宝塚歌劇場指揮者として活躍し、戦後、日本共産党参議院議員に選ばれた。
彼は、小林一三の「劇を一部の階級の人々の手から放して、国民のものにしたい」という主張に共鳴し、二十七年間宝塚の音楽担当者として活躍した。
軍国主義が宝塚にも及んでくるなかで、彼は仲間とともに社会科学を学ぼうということになった。ここで、西村欣治郎を講師にして科学的社会主義を学ぶ。西村を通じて、共産党へ毎月給料の四分の一以上を提供する。西村の依頼で共産党幹部三名を自宅に長期に匿い、このため特高警察に検挙された。一時宝塚を解雇されたが、須藤をたかく評価する小林の要請で復職した。
一見嘘のようなエピソードがある。須藤検挙の後、須藤の自宅の張り込みをしていた警官が、仕事に嫌気がさして辞表をだした、ということが須藤の「自伝」に叙述されていた。叙述が真実であることを、著者は新史料によって確認している。一九三二年の毎日新聞の記事、「共産党狩りの殊勲警官が無産運動へ飛び込む」である。警官が須藤およびその夫人に感化された、という感動的な話である。
ここに見られるように、著者たちの地道な史料研究が本書の叙述の前提になっている。そのことにも評者は感動した。

治安維持法犠牲者追悼・顕彰と国家賠償要求同盟兵庫県本部結成35周年記念集会

10月14日(日)14時、兵庫県民会館11階パルテホール/記念講演「治安維持法と現代の国民統制」内田博文(九州大学名誉教授、近著:『治安維持法と共謀罪』岩波新書)/ピアノ演奏:池辺幸恵/参加費500円/記念パーティ(集会後、ラッセホール、4,000円)/☎078‐351‐0677

(兵庫民報2018年10月7日付)

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