力あわせて継続入居を勝ち取ろう
神戸市と西宮市が借り上げ復興市営住宅について、URと市との契約期間の終了を理由に、入居者に明け渡しを迫り、継続入居を願う入居者を訴えている裁判で判決や結審が相次いでいます。
大阪高裁・神戸地裁が相次ぎ神戸市の明け渡し請求を容認
大阪高裁:Nさん裁判
神戸市兵庫区にある借り上げ復興市営住宅キャナルタウンウェストに住むNさん(80歳女性)に対して神戸市が住宅の明け渡しを求めた裁判について、大阪高裁第八民事部(山田陽三裁判長)は十月十二日、一審の神戸地裁判決に続いて、市の請求をすべて認め、Nさんに、退去と借り上げ期間経過後の賃料などの支払いを命じる判決を言い渡しました。
この裁判では、Nさんが入居十日前に交付された入居許可書に借り上げ期間経過後の明け渡し義務が記載されており、これが公営住宅法第二十五条二項で義務づけられている「事前通知」にあたるかどうかが問われました。
神戸市は、もともと明け渡しは同法三十二条一項六号だけで請求できるとし、「事前通知」は不要だと主張していましたが、Nさんの裁判では入居許可書による「事前通知」も行っていると主張しました。
これに対し、Nさんの代理人の借上復興住宅弁護団(佐伯雄三団長)は、同項は「入居者を決定したとき」(抽選で入居が決定した時点)で「通知」をしなければならないと定めていると指摘。当時の神戸市が「事前通知」を怠っていたことから、明け渡しは請求できないと主張しました。
今回の判決は、「通知は入居者決定と同時に行われることが望ましい」としながら、法令用語として「とき」とは「時点」ではなく「場合」を意味し同項が「同時に通知をしなければならないことまで定めたとは解することはできない」として、「入居許可書」での記載が「事前通知」にあたると判断しました。しかし、三十二条の行使にあたり二十五条の「事前通知」が必要かどうかについての判断はしないまま、明け渡し請求を認めました。
また、弁護団は、高齢の入居者の転居は健康を損なうリスク(危険性)をともなうこと、現在、室内でも歩行器を使うなどNさんの生活の実情を示し、転居を迫ることは憲法が保障する人権と国連人権規約の「健康権」を侵害することも主張しました。
判決は、至近距離のバリアフリー住宅など住み替えに配慮されていたと、「完全予約制」(希望住宅に必ずしも入居できない)制度について誤解した判断を行っています。
Nさんと弁護団は最高裁に上告することを表明しています。
神戸地裁:Yy裁判
神戸地裁では十月十七日に同じくキャナルタウンウェストに住むYyさんに対し、住宅の明け渡しと賃料の支払いを命じる判決を下しました。判決は、
(1)(公営住宅)法25条2項の(事前)通知は、入居決定時に行われる入居者保護規定ではあるが、
(2)URと神戸市との借地借家法上(の)賃貸借契約が消滅していることから、
(3)公営住宅法上、25条2項の通知は、借り上げ期間満了時に転居するという心づもりを持ってもらう機能しかないと判断し、
(4)(公営住宅)法32条1項6号の請求には25条2項の「事前通知」は必要ない
として神戸市の明け渡し請求を認めました。
Yyさんと弁護団は高裁に控訴することを表明しています。
神戸地裁Tさんら4人結審
「落ち度がないのになぜ差別」Tさんが陳述
神戸地裁第四民事部(和久田斉裁判長)で行われていた、キャナルタウンウェストに住むTさん、Nmさん、Ynさん、Kさん四人についての裁判は十月十五日に結審し、来年二月七日に判決が言い渡されることになりました。
Tさんたちの場合は、入居許可書に借り上げ期間についての記述はありませんでした。
十五日にはTさんが意見陳述に立ち、当時の職員から期限についての説明がなかったこと、期限が迫ってきてからの高圧的な職員の態度なども述べ、「自分に落ち度がないのに、ようやく安定した在宅生活をあきらめ、転居先で転倒したりするかもしれず、コミュニティもない中で生活しなければならないのでしょうか。他の被災者とくらべこれほどまでに差別されなくてはならないのでしょうか」「今後、いつ、どこで、住宅を失うような災害が起こるか分かりません。この国で二度と、落ち度のない被災者が自治体から訴えられ、追い出されるようなことがあってはならない」と訴えました。
新しい支援はじめよう借上弁護団がシンポジウム
借上復興公営住宅弁護団は十月十四日、神戸市内で「被災者追い出し裁判の〝これから〟を考える」シンポジウムを開催しました。
▽吉田維一事務局長が裁判の全体像と現状、今後の予定について報告▽西宮の広川恵一医師は借り上げ住宅入居者の健康・フレイルの状況が「退去」どころでないことを指摘▽神戸大学の井口克郎准教授は、国連社会権規約が日本国憲法同様、国内法に優先することを指摘し、同規約の「健康権」からも「退去」強要は不当だと主張しました▽復興県民会議の岩田伸彦事務局長は、二〇〇一年の国連人権委員会に阪神・淡路大震災被災者の状況について報告し、日本政府に対する勧告を実現した経験について報告しました。
最後に「裁判とともに新たな支援の取り組みをはじめ、力を合わせて継続入居を勝ち取りましょう」のアピールを採択しました。
(兵庫民報2018年10月21付)