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2018年6月17日日曜日

観感楽学

「ゴンドラの唄」―映画『生きる』(一九五二年・黒澤明監督)で志村喬が歌うシーンは強く印象に残っている。役所の中間管理職だが、役所にやってくる住民の陳情などもたらい回しにするなど、ただ黙々と無為に日々を送る主人公ががんで余命告知される▼死期が迫る中で何か役立つ足跡を残したいと、放置されていた住民の陳情に取り組もうと動き出す。関係部署を必死に説得し小さな児童公園を完成させる。小雪の舞う深夜、その公園のブランコに揺られながら歌うのが冒頭の唄。死に直面しながらも「公務」を果たした達成感に満ちた穏やかなまなざしが印象的だ▼葬儀で同僚たちは、彼のように納税者のために熱意をもって仕事を!と盛り上がるが、結局は、その誓いなどなかったかのように今まで通りの、当たり障りのない日常が続いていく▼志村喬の孤軍奮闘は尊いが、すでに現憲法で「すべて公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」(十五条)とされていた。それから六十五年もたってモリカケ問題にみられる悪質さは極限状態だ。内閣はじめ役人も、国民も「全体の奉仕者」「憲法尊重擁護義務」の憲法の意味を今こそ思い起こしたい。(K)


(兵庫民報2018年6月17日付)

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