安倍政権の改憲暴走のなかの地方自治
兵庫県原水協事務局長 梶本修史
これまで三度、県の管理する姫路港に米軍艦が入港しました(二〇〇一年八月、〇三年十一月、〇六年八月)。兵庫県は「非核証明」を求めながら、米側の回答がないのに入港を認めました。「非核証明書」を義務づける神戸港(神戸市)とは大違いです。
米軍艦に無条件開放
三度目には、「非核証明は自己証明なので、自己証明をいくら求めてもどれくらいの価値があるかわからない」として、非核証明の請求それ自体を否定する態度をとりました。さらに、「それよりも現行の枠組み、米政府の基本的な考え方というものを前提に判断したい」「非核証明を出せと言うと、個別の軍艦の状況について言及せよということになり、出せということは入ってくるなということになる。少なくとも日米安保条約上の相互関係からすると特定の理由なしに拒否をする理由がない」(記者会見)と、米軍艦に無条件開放の立場を表明しさえしました。
安倍政権が強行した戦争法(安全保障法制)は、十本の法律を一括改定したものですが、これまで「日本有事」を条件としていたものを「武力攻撃事態」など集団的自衛権行使、米軍の戦争支援などでも、地方自治体を動員できるように改悪しました。港湾などを管理する自治体が反対しても、内閣が強制的な権限を発動して、米軍に使用させることができる仕組みができました。
戦争法〝言いなり〟
憲法の保障する地方自治の原則を破壊してまで、米軍の戦争を支援する態勢づくりです。いま、沖縄県の辺野古埋め立て計画を、県の権限を乗り越えて国が代執行で強行しようとしているのは、その典型的な実例です。この時に、「日米安保条約上の相互関係」「米政府の基本的な考え方というものを前提に判断」ということは、兵庫県が戦争法の言いなりになることを宣言したに等しいものです。この態度は、兵庫県の防災訓練に米軍を招き入れるような暴挙のもとになり、地域住民の安全・くらしを守る地方自治体の責任を放棄したものではないでしょうか。
兵庫県がこのような態度をとる根本には、平和問題にたいする消極的、否定的な姿勢があります。兵庫県が、全国の都道府県段階で非核宣言をおこなっていない数少ない県、六都県の一つであることはよく知られています。日本の非核宣言自治体は、千七百八十八自治体のうち千六百四自治体(二〇一六年一月現在)。実に八九・七%にのぼり、日本国民の反核の総意を示しています。
9割自治体で非核宣言
兵庫県では四十二県市町のうち三十七市町(八八・一%)で非核宣言されています。また「核兵器廃絶の市民意識を国際的な規模で喚起し、核兵器廃絶を実現させる」ことを目的とした平和市長会議には、兵庫県で三十市町が加盟しています。この県民の非核の総意を受けとめない県政の異常さは明らかです。井戸知事は、「非核宣言は議会の判断」と言い続けていますが、その県議会は、平和市長会議が全国の自治体におこなった要請にこたえて、「核兵器の廃絶と恒久平和実現に関する意見書」を採択しています。「国際社会の先頭に立ち、核兵器廃絶に向けて行動する責務がある」とする議会の意思が明確に示されているのだから、兵庫県はただちに非核宣言をおこなうべきです。
兵庫県は、日本の中で太平洋と日本海の両方に面した特徴をもちます。南は大阪湾から太平洋へのシーレーンとして海上自衛隊の基地(掃海艇基地)が置かれ、北は北東アジア、朝鮮半島に隣接し、双方とも「軍事的要衝」と位置づけられています。
北東アジアの緊張が高まると第七艦隊の空母、イージス艦などが集中します。それだけにこの地域の平和の実現は、国だけでなく自治体の責任でもあります。
憲法いかす県政の登場を
日本の十県はじめ中国、韓国、北朝鮮、モンゴル、ロシアの六カ国七十三自治体が加盟する「北東アジア地域自治体連合」が活動しています(一九九六年設立)。その目的として、「互恵・平等の精神に基づき、全ての自治体の交流協力のネットワークを形成することにより、相互理解に即した信頼関係を構築し、北東アジア地域の全体的な発展を目指し、同時に世界平和に寄与する」とされています。
何かと緊張関係の厳しさが指摘されている北東アジアの平和の構築のために、非核・平和宣言をおこない、自治体外交の場を活かした役割を果たすことも兵庫県がおこなうことができます。憲法を活かす県政の登場は、戦争をしない日本にするうえでも欠かせないことなのです。
(2016年4月3日付「兵庫民報」掲載)