記事を検索

2016年10月2日日曜日

山崎豊子『約束の海』

神戸の造船所が軍事政策に深くかかわる一端も描く

段野太一

兵庫多喜二・百合子の会の濱本鶴男氏から『約束の海』に、「神戸の造船所が書かれているよ」と聞き、読んでみることにした。
山崎豊子といえば、『白い巨塔』『華麗なる一族』『不毛地帯』『大地の子』『沈まぬ太陽』等々、その時代の社会問題に鋭く切り込み、医療や金融界、財界の闇を暴き、日本の戦争責任などを糾弾してきた日本を代表する作家である。
『約束の海』は第一部、第五章までを書き終えたところで逝去され、残念ながら未完のまま「絶筆」として出版された。「未完」に終わったとはいえ、第一部は完結している。
私は、第二部、第三部へと筆を進めようとしていた作者が、どんな思いでこの作品を書こうとしたのかを知りたくて、「執筆にあたって」というあとがきから読み始めた。そしておもいがけなく、「『約束の海』その後」として収載されている第二部、第三部のシノプシス(作品のあらがき)を目にすることになった。作品の創作過程を初めて垣間見て圧倒された。
本書は、真珠湾攻撃の際、米軍に捕らえられ日本の捕虜第一号になった実在の人物をヒントに、その息子を潜水艦勤務の海上自衛官と設定して、潜水艦と漁船の衝突事故をからませ物語を展開する。
この『約束の海』の中で、事故を起こした潜水艦が神戸の造船所で修理されることから、神戸は、主人公と美しいフルート奏者との恋の舞台として、三宮国際会館や六甲山が登場する。この潜水艦事故にまつわる記述の中で、三菱、川崎との名指しはないが、神戸造船所が日本の軍事政策に深くかかわっている一端が描かれている。
この小説の全体構想は、第一部・潜水艦「くにしお」編、第二部・ハワイ編、第三部・千年の海編の三部作とされていた。著者は、この後、第二部の中で、実在の人物であった主人公の父親を登場させ、日本の戦争責任を追及し、第三部で尖閣諸島問題などから自衛隊のあり方に迫ろうとしていた。いわば壮大なシンフォニーが、その序章だけで終わったことは残念でならない。
(兵庫県日本共産党文化後援会)


山崎豊子『約束の海』(新潮社刊)
 単行本二〇一四年二月
 新潮文庫二〇一六年八月
 『山崎豊子全集[第二期]』第四巻二〇一四年十二月

(2016年10月2日付「兵庫民報」掲載)

日付順目次