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2016年7月6日水曜日

借り上げ住宅の真実:Q&A [3]

Q: 出ていった人と比べたら不公平とちゃうの……
A: 自立しようにもできず困っているのです。


借上復興住宅弁護団 吉田維一

K:なるほど~。吉田先生、法律や税金のお話は良くわかりましたが、市民の方の素朴な感情なのかもしれませんが、「出ていった人もおるんやろに、ちょっとその人と比べたら不公平とちゃうの」と言う方もいます。この辺はどう考えれば良いのでしょうか。

Y:神戸市長や西宮市長が懸命に強調していることですね。被災後、自立して借り上げ復興住宅を出ていった方と、自治体に言われて出ていった方と分けて、考えてみましょう。

K:はい、お願いします。

自立して出て行った人と「公平」に?


Y:最初に、自立して出ていった方についてです。清田さん、今年で阪神・淡路大震災から二十年ですが、被災した方々は、皆さん自立していると思いますか。

K:いえ、私も、日々の相談で、震災をきっかけに、生業を失ったり、再起しようとして上手くいかなかった方の相談を良く聞きます。

Y:そうなんです。自治体は、「自立再建した人との公平性」と言うのですが、公平というのは、同じ環境にあって初めて比較ができます。自治体は、いったい誰と、入居者の方を比較して「不公平になる」と言っているのか皆目分かりません。

K:二十年前に震災が遭ったときに、被災者ひとりひとりが置かれた状況や年齢、家族、知人・友人などの周囲の環境は、本当に違っていたでしょうね。

Y:そうです。震災後も、震災から二十年経った今も、住居や住環境は、ひとりひとり「違い」が存在します。

K:自治体は、よく、「被災者間の平等」と言ったりしていますよね。

Y:そもそも、一部の被災者にだけ、転居が必要なことを知らせず、借り上げ復興住宅に入居させてしまった自治体が「被災者間の平等」に反したことをしていますよね。自治体の本当の仕事は、形だけの「被災者間の平等」を述べることではありません。被災した後に生活が一変して困っている人たちの命や健康をしっかり支えることです。入居者ひとりひとりの状況や境遇に寄り添った対応が大切ではないかと思います。

自治体に出ていくように言われて出て行った人とは?


K:なるほど~。吉田先生、自治体に出ていくように言われて出ていった方についてはどう考えれば良いのでしょうか。

Y:清田さんが、四十歳くらい年を取った頃のことって想像がつきますか?

K:いえ、全く想像がつきません。

Y:では、二十歳くらい年を取った頃のことって想像つきますか

K:吉田先生……、あまり、年取ることについては考えたくありません。

Y:ごめんなさい。実は、これから話すことに関係があるんです。借り上げ復興住宅と言っても、公営住宅ですから、引っ越しは原則として認められません。そのため、震災から十五年間くらいは、引っ越しする場合には、賃料も高くなる民間住宅に転居しなくてはならなかったんです。それだけの収入がある人が出ていったということです。

K:もともと、転居の「ハードル」はとても高かったんですね。

Y:そうです。自治体は、入居の時に二十年後に出ていってもらうとは言っていません。他の復興住宅と同じように、「終ついの棲すみ家か」として借り上げ住宅を紹介しており、先ほどお話ししたように、二十年後に出ていくという話も聞いていなかった入居者は、転居しなくてもよいと信じて長い間、生活してきたんです。

K:入居者は、引っ越しなんて考えて生活していなかったのですよね。

オーナーも困ります


Y:入居者だけではありません。神戸市は、実は、借り上げ復興住宅の民間オーナーに二十一年目以降も全戸の借り上げに協力してくれるかというアンケートを取っていたのですが、結局、一部の部屋しか借り上げないと決めてしまったのです。

K:オーナーは、二十一年目以降も借り上げられるものと期待したでしょうね。

Y:全部を借り上げてくれないとなれば、これからオーナーも賃貸管理をしなくてはなりません。オーナーの方も、困ってしまい、この際、全員退去してもらって処分してしまおう、という方が続いて神戸市では大変なことが起きています。

K:オーナーにも二十年の年月が流れたんですね……。あ、吉田先生が私に年を取ったときのことを質問した意味がわかりました。その間に、皆さん二十歳くらい年を取ったということですね。

Y:そうです。想像できますか? 入居のときに、何も説明を受けず、出ていかなくてもよいと思って、二十年近く生活してきたわけです。それにもかかわらず、神戸市は、いったん、神戸市が引っ越しさせてはいけないと決めたはずの八十五歳以上や要介護三以上の入居者に対し、手のひらを返し、出ていくように言っています。西宮市も、九十代の入居者も追い出そうとしています。

K:被災して、二十年たった今、自立もできず、転居が必要ないと考えて生活してきた方と、自立や転居ができると考えて出ていった方とが比べられることの方が不公平だと、私は思います。

自治体のミスのツケを困っている人たちに負わせる社会に?


Y:この問題では、私たちの社会のあり方についても問われています。六十代、七十代、八十代と、働いて収入を得ることが難しくなっている状況の人たちに対し、入居当時に引っ越しが必要になることを知らせなかった自治体が、形ばかりの「公平」「平等」を振りかざし追い出してしまうことが許されれば、今後、自治体のミスのツケや住民の健康を軽視する政策を、本当に困っている人たちに負わせる社会を私たちが許すことにもなりかねません。

K:自分たちが、将来、被災者になったときのこと、自立しようにもできずに困っているときのこと、想像してもらいたいですね。

(続きは二十四日付に)

(2016年7月10日付「兵庫民報」掲載)

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