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2016年7月3日日曜日

観感楽学

私がその人を知ったのは十年ほど前、彼女は神戸市役所の二十四階の喫茶店のレジ係をしていて当時すでに五十代半ばだった▼「らっしゃいませー」とか「ありとざいましたー」などという若い店員が多い中で、彼女は「有難うございました」「またお越しください」と丁寧に目を合わせて応対する女性で、いつしか気安く話をするようになっていた▼私は、はじめ、彼女が障しよう碍がい者であることも気付かず、卓球の選手であることも知らなかった。彼女が日本を代表するパラリンピアンだと知人から聞いて驚いたのは、ずいぶん経ってからのことだった▼彼女の名は「別所キミヱ」さん。四十歳で夫を亡くし、四十二歳で病気で車いす生活に入ってから卓球と出会い、五十歳を過ぎて日本を代表する選手となり、数々の国際大会で優勝。アテネ、北京、ロンドンとパラリンピックに連続出場して活躍している。長い髪を金髪に染め、試合となれば、温和で美しい表情を鬼の形相に一変させる彼女の姿は、「金髪の鬼」と呼ばれて恐れられているという▼まもなくリオパラリンピック。この別所さんも六十八歳、福原、石川、伊藤の三選手を合わせた年齢を上回る。リオはもう無理かと思いきや、並み居る若手選手をなぎ倒し日本代表の座を勝ちとってしまった。世界ランクは第七位、リオでは表彰台を目指すという。病を克服して奮闘している「地元の誇り」をみんなで応援しよう。 (D)

(2016年7月3日付「兵庫民報」掲載)

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