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2016年1月31日日曜日

観感楽学

「中国引揚げ漫画家の会」というのが一九九五年三月に旗揚げしている。赤塚不二夫・森田拳次・ちばてつや・古谷三敏・高井研一郎・北見けんいちなど十二人の漫画家と漫画評論家の石子順によって結成。『ボクの満州』や『中国からの引揚げ-少年たちの記憶』の出版や、日本各地そして中国での漫画展も行ってきている▼全員が中国から「引揚げ」てきた経験を持つのだが、石子順は「引揚げ」という言葉にどうしても引っかかると『ぼくらが出会った戦争』でその心情を語っている。「引揚げ」では旧満州を植民地にし中国を侵略してきた歴史や事実がうすまるというのだ。中国からみれば、国内にいる日本人を送還・退去させる「遺送日僑」という表現となり、不法に中国にいたということも言外にこめられ実態に近い。ところがそれとぴったり合う日本語がない。これが彼の引っかかりなのである▼戦前の天皇制政府は「五族協和」「王道楽土」のスローガンで国民を「満蒙開拓」に動員し、敗戦となるとこれを「終戦」といいかえ、「一億総懺ざん悔げ」によって自らの戦争責任を曖昧にしてきた。そんな言葉づかいをつかさどる遺伝子はいまアベ政治に復活している。「一億総活躍社会」なるコトバを打ち出し担当大臣まで置いた。「世界で一番企業が活躍しやすい国」と言ってきたこととの整合性などお構いなし▼「引揚げ世代は今日も生きて、亡くなったものたちの言葉を伝えている」と石子の弁。その言葉こそがいまわかものの体内に取り込まれ、彼ららしい彩りでスマホにメモされ、街中で発信されている。 (T)

(2016年1月31日付「兵庫民報」掲載)

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