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2016年1月31日日曜日

ノーモアヒバクシャ近畿訴訟・傍聴記:2016-1-20

「科学的知見とは」を正面から問い直す

副島圀義

大阪高裁一月二十日の弁論は、放射線被曝と疾病の関係についての「科学的知見とは?」を、正面から問い直す場となりました。


甲状腺機能低下症と被曝線量の関係についての研究業績が高く評価され、国際被爆医療協会名誉会長でもある長瀧重信氏らが、国側にたった意見書を提出。

対して、原告代理人の濱本由弁護士が反論するとともに、被爆者医療の第一人者である郷地秀夫先生が意見書を提出したのです。


長瀧氏らは「原告の請求を認めた一審判決は、長瀧論文などを不適切に引用している」「長瀧論文は甲状腺機能低下症と放射線の関連性を認めたわけではない」と、自らの研究の成果を低めました。国が遠距離被爆者の甲状腺機能低下症を原爆症と認めないことを「専門家として応援する」内容です。

郷地先生は逆に、長瀧論文の値打ちを緻密に明らかにしました。有病率と発病率の関係、研究対象の選び方、被爆医療研究発展のなかでの位置などについて述べています。

データ解析・評価での長瀧氏の「つまずき」について「放射線起因性があるということは、線量と発病率が単純に右肩上がりになるということではない」と、臨床現場ならではの指摘もあります。

さらに、国が一貫して認めようとしない内部被曝の仕組みについて、核種ごと臓器ごとの特徴などを詳しく解説。長瀧論文が、甲状腺の病気にとっては特別重要な内部被曝の問題にせっかく接近したのだから「自説に誇りと自信を持っていただきたい」と惜しんでもいます。


裁判は本来、学問上の研究討論の場ではなく、憲法・被爆者援護法などを基準に、行政のあり方の是非を問うものでしょう。しかし、この日の弁論を聞き、郷地意見書を読んで、科学的知見発展のプロセスや、科学(者)が果たすべき社会的役割についても、改めて考えさせられたことでした。

(2016年1月31日付「兵庫民報」掲載)

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