米国の軍事行動支援が目的
憲法9条の核心は、〝国家の武力行使それ自体を否定した〟ことにあります。これは憲法制定過程での吉田茂首相答弁「自衛権の発動としての戦争も、又交戦権も放棄したものであります」に示されています。
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こうした本来の規範を自民党政権は「解釈改憲」で変えてきました。
第1期は1950年代前半、日本の再軍備、自衛隊創設にあたり、個別的自衛権発動の場合は武力行使が許されるという「専守防衛論」が54年に確立します。しかしこの段階では①海外派兵は禁止②集団的自衛権行使は否認③保有兵器も限定―という限定性をもったものでした。
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この解釈に、米ソ冷戦終焉後、変化が起こります。90年代前半にPKO等協力法、国際緊急援助隊法改正で、「国連協力」「国際貢献」「人道的貢献」を名目として自衛隊が海外に出ていきます。さらに、96年「日米安保共同宣言」、97年「新ガイドライン」で日米安保体制がまったく新たな段階に入ります。日本に対する武力攻撃とは無関係に米軍が起こした軍事行動を全面的に支援することになります。これが99年「周辺事態法」で法制化されます。
この段階で第2の解釈改憲の時代に入ります。「専守防衛論」の枠組みで説明するために、後方支援は米軍の武力行使とは「一体化」できないという論が登場します。
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ところが、米国はこれに不満を示します。2000年アーミテージ・ナイレポートで明文化されているように、集団的自衛権行使の禁止事項を取り払うことを要求してきます。21世紀に入ると、自衛隊がアフガン戦争、イラク戦争など実際の戦争に直接参加していきます。
こうなると54年来の「専守防衛論」では説明が不可能となり、第1次安倍政権は明文改憲をめざしましたが、頓挫します。
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第2次安倍政権も当初、96条改正による明文改憲を追求しますが、昨年7月1日「集団的自衛権の『限定』容認」「米軍支援の大幅拡大」を閣議決定しました。
9条の規範性を全面的に破壊しようとする解釈改憲で打破しようとしているのが現時点です。
日本の防衛とは無関係に、グローバルに展開する米国の軍事行動を支援することが求められている。これが、54年来、法的安定性を保ち、国民の支持も一定得てきた――私は違憲だと思うのですが――「専守防衛」という憲法解釈を、明文改憲ではなく、閣議決定という手段を講じてまで変えなくてはならなくなった理由です。こうした流れをとらえておくことが重要です。
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戦争体験をもつ政治家が少なくなってきたこと、小選挙区制・政党助成金による党内統制が強まっていることと、安倍首相の右翼的な個性とがあいまって、自民党はこれまでの〝小国主義〟的な保守政党とは全く異なる政党になっています。
戦後70年にして日本国憲法は大きな岐路に立っています。「保革」を超えた国民的共同のたたかいを大いに広げなくてはなりません。 (談)
(神戸大学名誉教授(憲法学)・兵庫県憲法会議代表幹事)
