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2015年11月1日日曜日

福太郎さんのこと:大門みきしエッセイ(5)

九月末に風邪をこじらせて急性肺炎になり、二十日ちかく入院・療養しました。病中、たくさんの方にご迷惑、ご心配をおかけし、またフォローもしていただきました。おわびとともに心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

三十八度以上の熱が数日つづくとあらぬことを考えてしまうもので、妻になにかほしいものがあるかと聞かれ、天むす(えび天の入ったおにぎり)とこたえました。おそらく、この世の最後に食べたいと思ったのが天むすだったのでしょう。

おなじ病室の福太郎(仮名)さんとお話しするようになりました。身よりのない七十二歳。重い病気にもかかわらず、いたってのんきな自由人で、病室でたばこを吸ったり、用もないのに呼び出しボタンを押したり、いたずらばかりしていました。女性の看護師さんたちも慣れたもので、けっして怒らない。お見舞いに来る人がいない分、家族のように接してあげていました。福太郎さんをみているとあまりに屈託がなく、人間、なにが幸せかわからないとおもいました。

退院する日の朝、福太郎さんにあいさつをしようとカーテンの中をのぞいたら、まだ眠っておられました。もう充分生きた、と言っているような平穏な寝顔でした。

病院を出て、秋色に変わる街路樹をみながら、誰でもいつかはお迎えがくる、そのときは、なにが食べたいなどと騒ぐことのない人間になっていたいものだとおもいました。

(参院選比例予定候補)

(2015年11月1日付「兵庫民報」掲載)

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