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2015年10月25日日曜日

観感楽学

戦艦「武蔵」の残骸がシブヤン海海底から発見と報道され、ゼロ戦特攻を〝永遠〟とする小説がミリオンセラーという。戦艦の相手、特攻機の突っ込む先も米機動部隊。決して略奪も餓死も慰安所も主題にはならない▼戦艦神話は「宇宙戦艦」にまで拡大再生産されているが、「大和」特攻は沖縄に達せず坊ノ岬沖に沈み、「武蔵」はレイテ作戦に間に合わず撃沈され、「陸奥」は瀬戸内海で自爆、「長門」は燃料キレで敗戦を迎え、戦後米軍の核実験標的艦となる。国民を飢餓状態にまで収奪して建造された戦艦の実像である▼戦艦だけではない。「大和」特攻に随伴した駆逐艦「初霜」は弾雲を巧みに避けて疾走、波間に漂う水兵たちを収容して帰投した。しかし幸運もここまで。練習艦となりわずか二カ月で宮津湾の空襲下沈没、戦後解体まで湾内に突き出た艦首を丹後の長老たちは覚えている▼俗論は「アメリカの物量に負けた」とする。しかし中国・アジア侵略の泥沼がすでに大勢を決していた。そこには略奪、強制連行、強姦、餓死、現地住民と彼我の兵たち百万の犠牲が積み重なっていた。戦後七十年、「武力抑止・国防論」への決別を覚悟した憲法の深淵だ。 (A)

(2015年10月25日付「兵庫民報」掲載)

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