憲法9条と25条、同時破壊の進行
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井口克郎さん |
今回の安全保障関連法案による集団的自衛権の容認等は、平和主義を謳う憲法9条に違反し、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果である日本国憲法全体の理念や方向性にも真っ向から違反するものです。
今日、真の平和を追求するにあたり私が敢えて指摘したいのは、現在、憲法が空洞化されているのは9条だけではないということです。特に重要なのが25条の空洞化です。
私は大学では社会保障(医療・福祉、年金、生活保護など)や人権といったことを教えています。社会保障は私たちが人間らしい尊厳ある生活をしていくために不可欠な公共サービスです。社会保障については、憲法25条が人々には健康で文化的な生活を営む権利(生存権、生活権、健康権)があり、国にはそれを保障する義務があることを規定しています。
しかしこの間、小泉「構造改革」をはじめ国は一連の社会保障費大幅抑制を進めており、現に生活保護の給付引き下げ、介護保険給付範囲の限定化等が行われています。
2012年に社会保障制度改革推進法という法律が成立しました。社会保障の国家責任については先述の通り憲法25条で規定されているのですが、この法律は、社会保障費抑制や国家責任軽減のため、極力生活問題は家族及び国民相互の助け合いで対応するよう、社会保障の責任・役割を国民に転嫁し社会保障の変質を進めることを意図しています。
安全保障関連法案の審議と並行して今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」(「骨太の方針2015」)も、社会保障費抑制推進の方針を示しました。
これまで進められてきた社会保障抑制等の政策の結果が「格差社会」という貧困と不平等が大きな社会問題になっている今日の日本です。憲法9条の実質改憲と並行して、私たちの基本的人権を規定した25条も実質改憲が行われてきているのです。
これらは密接に関係があります。今後もし、日本が自衛隊をより積極的に海外展開したり、戦争に巻き込まれたりしていくようなことになれば、そこには膨大な資金がかかります。どこから捻出するかとなれば、社会保障をいっそう抑制するということになりかねません。安全保障関連法案が成立すれば、人々が平和の下で健康で文化的に生存および生活する権利(平和的生存権)が剥奪されていく危険性が大きいでしょう。
軍事力による威嚇の強化は、際限ない軍拡競争と人々の人権の剥奪を伴います。私たちには今、良心と知性に基づいた平和を求める不断の努力、すなわち貧困や不平等の撲滅及び人権の拡充を基盤とした、平和的外交手段や市民レベルの国内・国際的対話等による、真の平和を目指す努力こそが求められています。
(2015年8月30日付「兵庫民報」掲載)
