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2015年7月12日日曜日

なまの舞台をごいっしょに:こまつ座『父と暮せば』

神戸演劇鑑賞会7月例会


父・竹造(辻萬長)と娘・美津江(栗田桃子)

登場人物は、娘と父のふたりきり。この父娘の会話を通して浮き彫りになるのが「生き地獄」、今から70年前の夏。ヒロシマに投下された原子爆弾による惨状が、具体的に語られる。

1948年(昭和23)。広島市の比治山でひとりで暮らす福吉美津江23歳。彼女は図書館に勤めている。原爆病がいつ発症するのか。そして、原爆投下の日、家の下敷きになって焼け死んだ父・竹造を助けられなかった悔恨に苦しみながら。

ある日。ひとりの青年が図書館にやって来た。集めた原爆資料を図書館で保管して欲しいと。青年の下宿は資料の置き場がない。その上、床が抜けるとの大家の苦情が出ている。

美津江は青年とたびたび会うことに。やがて、恋心が芽生え始める。だが、美津江は素直に、自分の気持ちを青年に伝えられない。いじいじしている美津江を見て、焼け死んだはずの竹造が、のこのこ出張ってくる。

生きることに後ろ向きになっている娘に、生きよ、生き抜けと、励ましの応援歌をおくる。

作者・井上ひさしは、残された被爆者たちの膨大な手記の中から台詞を編み出し、独特のユーモアを交えている。だから、台詞のひとつ、ひとつは、優しいが奥深く、胸に滲みうる。

原子爆弾を投下された直接の激しい憤りはない。が、父と娘の会話から、それ以上の激情が湧いてくる。平和で有ること、そして、生き抜くことの大切さを感じる舞台です。

(小谷博子)


こまつ座公演『父と暮せば』/作=井上ひさし、演出=鵜山仁、出演=辻萬長、栗田桃子/①7月26日(日)16時②27日(月)19時③28日(火)13時30分/神戸文化ホール中ホール/会員制(入会時に入会金1,000円と月会費2カ月前納)、月会費3,500円(大学生2,000円、中高生1,000円)/☎078・222・8651、Fax078・222・8653


(2015年7月12日付「兵庫民報」掲載)

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