神戸市の二〇一四年度当初予算案は、久元喜造市長による初の予算案です。市長選で争点になった課題や論戦で明らかになった市民要求などがどう反映されるか、三宮開発なども含めた大型公共事業・開発路線に対する姿勢はどうかが注目されます。
住宅バリアフリー化助成制度を創設、保育所定員を1400人拡大
市民要求との関連でみると、神戸・市民要求を実現する会などによる粘り強い運動や、市民にあたたかい神戸をつくる会のぬきなさんが市長選で訴えた公約も一部反映された内容になっています。
子どもの医療費助成は、中学卒業までの外来の一部負担が「一日上限五百円」(一医療機関ごと)に拡充されました。
市内経済への波及効果の高い住宅リフォーム助成制度が「住宅のバリアフリー化助成制度」として施策化されました。
中学校給食は「デリバリー・ランチボックス方式」ですが、今年秋三十三校で先行実施、一五年度中に全校実施とされています。自校調理方式での実施を求める市民の運動が続いています。
保育所待機児童解消対策として保育所増設などで千四百人の定員増。ただし、うち四百五十人は駅前ビルなどを活用した小規模保育事業での対応となっており、子どもにとって最良の保育環境を保障するという点では問題も抱えています。
神鉄への「敬老パスと同程度の助成」―実施は15年度からの見込み
神戸電鉄での「シニア層などを対象とした新たな乗客増対策」は、市長が昨年末に表明した「敬老パスと同程度の支援」のことですが、一五年度実施へ今年度はシステムなどを検討。充実した制度へ市民が声をあげることが必要です。
LRT(次世代型路面電車システム)やBRT(専用のバスレーンを有する、もしくは運行車両に連節バスを用いる路線バス)については、採算性なども含めて実施の可能性を検討するとしています。
進出企業には大盤振舞―税の優遇や設備投資助成など
市民要求の一部を反映しているとはいえ、予算の本質は大型開発路線の継続。経済活性化・雇用対策でも企業誘致に重点を置いています。
税金等の優遇措置も拡充。支援対象もIT、ベンチャー、外国系企業などを優先しています。固定資産税の「二分の一軽減、三年間」を「九割軽減、五年間」、大規模特例では「九割軽減十年間」としています。設備投資への助成も「投資額の三%以内・上限五億円」など大盤振る舞いです。
こうした企業誘致で雇用約三千人増、市税収入は約二・六倍になるとしています。医療産業都市構想でも「経済効果もある。税収増にもなった」としていますが、本当に市税が増えたのかどうか一切わからないのが実態です。
一方、地域経済を支えている既存の中小企業への支援策はみえません。
三宮開発、医療産業都市、神戸港大水深バースなど推進
市長選挙でも争点となった三宮開発は、新神戸駅周辺から神戸駅周辺までの広範囲。構想を進めるため、新年度内の将来ビジョン策定へ官民共同で検討していくとしています。
医療産業都市推進に五十一億円、国際コンテナ戦略港湾の推進を口実に神戸港での大水深バースの建設などに百九億円を計上しています。
神戸空港については三十一億円を計上していますが「将来的な三空港一体運営を視野に入れつつ、運用時間の延長や発着枠の拡大など」の実現に取り組む、という程度。利用者が増えず深刻な経営状態となっている点についての対策は示されていません。
大型公共事業推進のためには多額を投入しているのに対し、市民の暮らしに関する予算では、乳幼児医療費助成拡充分が四億円のみです。商店街・小売市場の活性化策は一・六億円程度、住宅バリアフリー化工事補助の予算は三千四十四万円などに留まっています。
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全体の予算案を貫いているのは、市民の運動や世論に押されて市民要求を取り入れながら、これまでの「大型事業と企業誘致優先」路線を継続していることです。
(2014年3月2日付「兵庫民報」掲載)