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2014年4月6日日曜日

観感楽学

私の父は、派兵先は「内地」の八丈島だったが、戦後すぐ帰還できたわけではなかった▼戦争が終わって、すぐに父は帰ってくると思っていた私(六歳)は、二歳下の妹を連れて、汽車が着くたび田舎の小さな駅の改札口にたって、降りてくる乗客のなかに父の姿を追った。しかし、十月が過ぎ冷たい秋風が吹く頃になっても父は現れなかった。母は、幼い兄妹が毎日のように駅に立って父を探す姿を不憫に思い「そのうちきっと還ってくるから」と慰めてくれた▼そして、もうだめかと諦めかけていた十二月初めの深夜、重い背はい嚢のうを背にした父が疎開先の小さなくぐり戸から「ただいま還かえってまいりました」と帰還してきた。母は泣きながら、眠っていた私と妹を「起きなさい、お父さんが帰ってきたよ」と揺り起こした。「うそや!」とまた眠りかけた私の口に、父が「ほら、金平糖やで」と、甘い小さな星の粒を口にねじ込んだ。子ども心にもうあんな不安な思いは二度としたくないと思った▼朝ドラ「ごちそうさん」の最終回で主人公の夫が復員してくるシーンを見ながら、ふと当時の自分を思い出した。あれから六十九年、「戦争する国」への逆戻りだけは、絶対に阻止しなければならない。(D)

(2014年4月6日付「兵庫民報」掲載)

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