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2013年10月27日日曜日

『戦後史の汚点レッド・パージ』:図書紹介

―GHQの指示という「神話」を検証する
藤木洋子

戦後史の汚点レッドパージ

レッド・パージ犠牲者の名誉回復のたたかいは、〝戦後、連合国の占領下におけるレッド・パージは、一九五〇年のマッカーサー書簡を起点とするGHQの指令・指示によるもので、日本国憲法も、日本政府の権限も及ぶところではない〟との最高裁の判例が定説化していて、これをどうやって突破するかに苦悩していました。

兵庫県のレッド・パージ犠牲者の川崎義啓、安原清二郎、大橋豊の三氏が、レッド・パージから五十九年の二〇〇九年、「生きているうちに」と、名誉回復と国家賠償を求め神戸地裁に提訴。その裁判で、証言に立たれた明神勲北海道教育大学名誉教授のレッド・パージ研究成果に目からウロコが落ちる思いをしました。

レッドパージ60周年の集会(2010年11月16日)で挨拶する明神勲教授と(その右隣から)安原、川崎、大橋の3氏

それは「レッド・パージ=GHQ指示」説を「神話」として否定し、「レッド・パージ=GHQ示唆・督励」説を提示されたことでした。

レッド・パージに関してマッカーサーが内閣総理大臣に宛てた書簡は五通。それぞれ①一九五〇年六月六日付―共産党中央委員二十四名の追放②六月七日付書簡―『アカハタ』編集責任者十七名の追放③六月二十六日付―『アカハタ』の三十日間発行停止④七月十八日付―『アカハタ』とその後継紙及び同類紙の無期限発行停止⑤八月三十日付―全労連の解散と十七名の幹部の公職追放―を指令したもので、それ以外のいかなることも具体的に指令したものではないことを明神教授は指摘。

これ以外の報道機関、官公庁、民間産業などでのレッド・パージについては、民政局公職審査課長ネピアや経済科学局労働課長エーミスらの談話、議事録を綿密に調べて、彼らが、財団や大企業の経営者などに対し、レッド・パージがマッカーサーの指示・指令ではないと明確に否定し、すべて経営者の判断と労使合意の上で執行することに神経質なまでこだわっていたことを、明神教授はこの書籍で解明しています。

これらの事実を日本政府も最高裁も十分認識しながら、すべての分野におけるレッド・パージを「占領軍の指令でなされた」ものだとする論拠として、最高裁が、それまで約十年間の裁判でまったく問題にされなかった「解釈指示」の存在を突如、立証不要の「顕著な事実」として登場させたことについて明神教授は、民生局長ホイットニーと最高裁長官官田中耕太郎との会談の記録を検証し、最高裁決定のいう「解釈指示」が「指示」ではなく、田中の求めに応じた単なる「助言」「示唆」であったことを明らかにしました。

著者がこの書籍に〝GHQの指示という「神話」を検証する〟と副題を付したとおり、事実を解釈によって歪曲してまでレッド・パージを正当化する、戦後を経てなお治安維持法体制の体質を脱し切れない国家権力を告発したところに大きな意義がある、と深い感銘をもって読みました。

過去の問題ではなく現代的な人権課題として捉える国民的運動に発展させることが、レッド・パージ犠牲者の名誉回復のみならず、現代を生きる私たち国民の人権を保障する力になるでしょう。特定秘密保護法制定への危険が迫る今こそ、本書の普及と学習が求められていると確信しています。


明神勲『戦後史の汚点レッド・パージ―GHQの指示という「神話」を検証する』/2013年8月、大月書店刊/四六判、328ページ/本体3,200円+税/日本共産党兵庫県委員会でも扱っています。

(2013年10月27日付「兵庫民報」掲載)

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