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2013年9月15日日曜日

『夢千代日記』:なまの舞台をごいっしょに

神戸演劇鑑賞会9月例会

「もう少し生きてみようと思います いいでしょ お母さん」

――被爆という運命と「たたかう夢千代」

既に、NHKのテレビドラマで一九八一年と翌年、更に一九八四年に、吉永小百合主演で放映され大好評を博した作品です。今回は、原作者・早坂暁と前進座が共に創り上げた、舞台版『夢千代日記』の登場です。

山陰の湯の里温泉にある置屋“はる家”がある。そこには、女将の夢千代、芸者・菊奴、雀、金魚、賄いのスミたちが肩を寄せ合って暮らしている。彼女たちはそれぞれ哀しい過去を背負っている。心に深い傷を持ちながらも、日々明るく、懸命に生きている。ある日、このはる家を山陽会と名乗るやくざが、突然乗り込んでくる。そして、夢千代たちの平凡な暮らしが破られて行く。

まず、賄いのスミさんの前に現れた息子ひとり。スミさんが中国に残した息子だと名乗るのだが、スミさんにもはっきりとした記憶がない。この場面に、まず涙を流すが、それより戦争の犠牲になった母と子の姿に胸をうたれる。菊奴の恋はおかしくもある。が、諦めていた恋に、うつつを抜かす素直な女の心が哀しい。記憶を失って、はる家に迷い込んだ男を懸命に看病する夢千代、その男の正体は。

沢山のエピソードが廻り舞台のように、観客の前を通り過ぎる。そこに、戦後を、生き抜いてきた庶民の歴史を感じる。山陰の過酷な自然と、胎内被曝を抱えながら、「もう少し生きてみようと思います いいでしょ お母さん」―夢千代のこの台詞は、力強い。そして、わたしも…あしたから、と、考えさせられる。

小谷博子

神戸演劇鑑賞会9月例会

前進座公演『夢千代日記』/原作・早坂暁/台本・演出=志村智雄、演出=橋本英治・志村智雄/出演=今村文美・高橋佑一郎/①9月29日(日)15時②30日(月)18時30分③10月1日(火)13時30分/神戸文化ホール中ホール/会員制(入会時に入会金千円と月会費2カ月前納)、月会費3千5百円(大学生2千円、中高生千円)/http://homepage2.nifty.com/kobeenkan/

(2013年9月15日付「兵庫民報」掲載)

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