957億3千9百万円のマイナス経済効果、7312人の職奪う
兵庫県公務・公共業務関連労働組合共闘会議議長 森栗 強
安倍内閣は一月二十四日に「公務員給与改定に関する取り扱いについて」との閣議決定を行い、この中で「国家公務員の給与減額支給措置を踏まえ、各地方公共団体において速やかに国に準じて必要な措置を講ずるように要請する」として、一月二十八日には異例の総務大臣書簡を各自治体首長・議会議長に対して送付しました。これ受けた、全国の地方自治体における「職員の賃金引き下げ」が大きな話題・問題となっています。
民主党政権下、「連合」傘下の「公務労協」が妥結
この「地方公務員賃金引き下げ問題」の発稱は二年前に遡り、二〇一一年五月、民主党政権下の片山総務大臣時代に東日本大震災の復興財源捻出のためとして、国家公務員給与を平均七・八%・一時金(ボーナス)約一〇%削減等を労働組合に提案したところから始まります。
「連合」傘下の公務単産で組織する「公務労協」は、①労働基本権の一部付与②削減は国家公務員であり、地方には影響を及ぼさない等を含めた条件によって十日間の短期間で早々に妥結をしました。支持政党である民主党を守るためとは言え、労働者の賃下げに加担した「公務労協」は批判されなければなりません。
また、震災復興財源の捻出を目的にあげていましたが、実際には、公務員賃下げによる財源は被災者にではなく、大企業が潤うための事業に湯水のごとくばらまかれています。
地方交付税の主旨に反する
民主党から自民・公明政権に変わり、二年前の妥結条件をことごとく覆し、地方公務員にも国家公務員に準じた賃下げを要請(実質的には強制)しています。
その強制の手法は、地方交付税から賃下げ分の削減を一方的に行い、そのうえで地方に対して「要請」するというものです。地方の独自財源を国が一方的に奪い、賃下げを強要するもので、地方交付税の主旨に反しています。
地方交付税法には、法律の目的(第一条)の中で、「地方行政の計画的な運営を保障する」とし、運営の基本(第三条)の中では「国は、交付税の交付に当たっては、地方自治の本旨を尊重し、条件をつけ、又その使途を制限してはならない」と規定されています。
この違法とも言える手法に対して井戸知事も入っている全国知事会は「地方公務員給与は地方が自主的に決定すべきもの。地方交付税の削減は地方自治の本旨から考えれば不適切。地方はこれまで国以上の定数削減、給与カットを行ってきた」と反対の声明を出しています。また、全国知事会・市長会等の地方六団体も一月二十七日の共同声明で「国が地方公務員の給与削減を強制することは、地方自治の根幹に関わる問題である」と地方自治の観点から批判。さらに「地域経済の再生なくして、日本経済の再生なし、との国と地方の共通認識からも、極めて問題である」と地域経済への影響も指摘しています。
県職員の給与削減
しかし、兵庫県の井戸知事は今回の地方交付税削減に関連し、県職員のさらなる給与削減を検討しています。これは全国知事会・地方六団体等の声明が指摘した「地方自治」「地域経済」の二点からも大きな問題をもっています。
第一は、「地方自治」を守り、県民の命と暮らしを守る観点です。
いま、国の一律的な政策だけでなく、地方の事情や、より県民・市民の生活に応じた政策・県政・市政を地方自治体独自で進めていくことが求められてます。とくに県民生活破壊の消費税増税、地域経済破壊のTPP参加等、国の進める悪政に反対し県民生活を擁護し、県内経済の再建が県政に求められています。
今回の地方交付税削減は兵庫県財政に二百五億円の影響を及ぼすと言われていますが、兵庫県職員は財政危機を理由に本来の給与決定原則である人事委員会勧告を無視した独自の給与カットを以前から強いられた結果、国家公務員給与を一〇〇としたラスパイレス指数は、九〇台に止まっています。さらなる給与削減は、冷酷な所業と言わざるを得ません。
第二は、地域経済に対する悪影響の観点です。
安倍首相までが経済団体に対して賃上げを要請し、マスコミも含めて、労働者の賃上げの必要性が言われている中で、井戸知事が提案する県職員の「賃下げ」は今の経済に冷や水をかけることになるのは「火を見るより明らか」です。
兵庫公務共闘では、県職員の給与引下げ反対の立場から、県職員の給与削減が県内経済に及ぼす悪影響を、県統計課から出されている「産業連関表」を使い計算を行いました。
給与削減の経済波及影響額まとめ
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生産誘発額
(百万円)
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粗付加価値誘発額
(百万円)
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就業者誘発数
(人)
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うち雇用者誘発数
(人)
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経済波及効果(A)
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▲95,739
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▲57,125
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▲7,312
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▲5,383
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当初需要額・県GDP(B)
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▲66,352
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17,701,435
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―
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当初比(C=A/B)
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1.44
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▲0.3
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【備考】県内GDP:2011(平成23)年度(名目値)
兵庫県統計課「平成17年産業連関表」 より
県職員給与の動向は市町の職員給与にも大きく影響し、また農協・漁協職員、福祉・医療、私学関係職員等の人勧準拠・公務員準拠の労働者にも影響を及すことから、直接・間接の影響は県内二十五万七千人の労働者に及びます。
上の表の当初需要額・県GDP(B)/生産誘発額が二十五万七千人の賃下げの総額であり、六百六十三億五千二百万円にも達します。その財源(お金)が県内を巡り、消費全体に対して影響する額が、経済波及効果(A)/生産誘発額の九百五十七億三千九百万円のマイナス効果と推計されます。五月二十四日付「神戸新聞」は「公務員給与引下げ、県庁周辺の飲食店が反対、知事に署名提出」と報道しています。そば屋の店主が「これ以上お客が減ると商売が成り立たない」とコメントしています。県内・地域経済に及ぼすマイナス影響は無視できません。
合わせて、県内の就業者誘発数(社長・役員も含む)では七千三百十二人が職を奪われる、雇用者誘発数(正規・非正規労働者)でも五千三百八十三人が職を奪われるとの推計結果も出ています。
二〇〇六(平成十八)年に開催された「のじぎく国体」の経済波及効果を、(財)ひょうご経済研究所は四百七十億円と発表しています。国体の二回分にも達するマイナスの影響を兵庫県経済に及ぼすことになります。
県知事選の争点に
七月に行われる県知事選挙では、「地方自治をかなぐり捨て、県民の生活を破壊するのか?」それとも「地方自治を守り県民の立場に立ち県民生活擁護の県政を実現するのか?―県民・県職員に冷酷な県政でなく、全ての労働者の賃上げによって地域の商店・中小企業を潤わせ、地域経済を発展させるのか?」が問われることになります。
(2013年6月9日付「兵庫民報」掲載)