二〇一三年四月三十日
レッド・パージ国家賠償請求訴訟上告人
大橋豊、川崎義啓、安原清次郎
レッド・パージ国家賠償請求訴訟弁護団
最高裁第一小法廷は、レッド・パージ被害者三名が国を相手に国家賠償請求訴訟を提起していた上告審において、二〇一三年四月二十五日付けで「上告棄却」「上告不受理」の決定をした。被害者らの上告理由書、上告受理申立理由書をはじめとする本訴訟に提出された一審及び二審の記録が最高裁に到着した旨の通知があった本年二月二十五日からちょうど二カ月目での決定である。
上告人ら及び弁護団は、最高裁決定が、その内容において空疎であるのみならず、異常に短期間で出された点について、極めて強い憤りを禁じ得ない。
今回の訴訟では、レッド・パージはマッカーサーの指令によるものであり、超憲法的効力を有するとして被害者の救済を拒否したかつての最高裁大法廷決定時において問題とされていなかった次の点が重要な争点となっていた。すなわち、
(1)講和条約発効後、政府及び国会が、速やかに被害者たちの人権侵害を救済するための措置や立法を行う義務があったにもかかわらず、これを放置した不作為の違法性、
(2)公職追放対象者が立法により救済されたこととの対比において何らの合理的理由もないのにレッド・パージ被害者の救済措置を講じなかったことが憲法十四条の法の下の平等原則に違反すること、
(3)本件訴訟において、明神勲氏が国会図書館に保管されていたGHQ資料を新たに発見し、同資料から田中耕太郎元最高裁長官とホイットニー民政局長との密談が明らかとなり、その中で、田中元長官がレッド・パージ遂行のためにGHQの指令を求めたことに対して、ホイットニー局長がこれを拒否していることが明らかとなって、田中元長官が裁判長として関わった昭和三十五年最高裁大法廷決定の見直しが必要であること、などである。
本件は、思想信条の自由、結社の自由という日本国憲法の根幹に関わる重要な基本的人権の侵害が問題とされた事案である。
また、レッド・パージについては、司法の一翼を担っている日本弁護士連合会が上告人らからの人権救済申立を含め、最近、二度にわたり、その人権侵害性を認めて被害者救済の勧告を出している。レッド・パージが、基本的人権保障の観点から看過できない重大な違憲性を有していることは明らかである。
更に、田中耕太郎元最高裁長官は、先日明らかになった公文書においても、砂川事件について、裁判の一方の利害関係者と秘密裏に面談し、守秘義務に違反して評議の秘密を漏らすなど司法の独立性を侵害したことを疑わせる言動が問題とされており、本件において新たに発見された資料についても、その内容を十分慎重に検討すべきであったはずである。
しかるに、このような短期間で上告棄却・上告不受理の結論を出したことは、最高裁が真面目に記録の検討をしていないことを露呈したばかりでなく、かつて、司法権の独立を放棄し、超憲法的効力を理由にレッド・パージを容認することでレッド・パージ被害者を「司法による救済」の枠外に置いてしまった最高裁自らの判断への批判を早期に封じるためであったと考えざるを得ない。
上告人らは、現在、九十六歳、九十二歳、八十三歳の高齢であり、レッド・パージにより、職を奪われたばかりでなく、反社会的分子であるかのような汚名を着せられて再就職の道を閉ざされ、長期にわたり塗炭の苦しみを受けてきたことに対し、「命あるうちに救済を」と訴え続けてきた。
その願いを無視した非道な決定を下した最高裁に対し、私たちは満身の怒りをもって抗議する。
最高裁の決定にかかわらず、レッド・パージが戦後最大の人権侵害であり、日本国憲法や国際人権規約その他の国際法規に照らし決して許されないことは明らかである。
そして、この問題は決して過去の問題ではなく、今も各地において被害者の名誉回復と救済を求める闘いは続けられており、全国各地の弁護士会にも新たに人権救済申立が行われ、審議がされている。
上告人ら及び弁護団は、全国のレッド・パージ被害者、その遺族、多くの支援者、そしてそれぞれの立場を超えて、思想信条の自由、結社の自由の保障の確立を願っている多くの人々と連帯して、レッド・パージ被害者の名誉回復と救済を勝ち取るまでたたかう決意を表明する。 以上
●市田書記局長も談話
日本共産党の市田忠義書記局長も四月三十日、次の談話を発表しました。
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最高裁第一小法廷は二十五日付で、レッド・パージ被害者の名誉回復と国家賠償を求めた上告を認めない決定を下した。これは、日弁連も「レッド・パージにより解雇された者らの人権救済を図ることは極めて重要な意義がある」とした憲法問題を、審理さえ行わず門前払いにするきわめて不当なものである。
共産党員もしくはその支持者であることのみを唯一の理由として解雇・免職されたレッド・パージは、思想・良心の自由(憲法十九条)を踏みにじる深刻な人権侵害である。米軍占領下でこのような重大な人権侵害を行いながら、講和条約発効後も放置してきた政府には被害者を救済する義務がある。
日本共産党は、レッド・パージ被害者の名誉回復と国家賠償の要求の実現のためにひきつづき奮闘するとともに、基本的人権の擁護とそれが守られる社会の実現をめざしてたたかうものである。
(2013年5月12日付「兵庫民報」掲載)