記事を検索

2013年2月10日日曜日

『弾圧に抗して歴史を拓いた人たち』を読む

兵庫革新懇事務局長 堤隆二

政治経済の行き詰まるなか国民本位の新しい政治の実現が強く望まれているが、国民本位、つまり民主政治をもとめる人民のたたかいは明治時代の自由民権運動にまで遡ることができ、一九四五年の日本の敗戦とその後の新憲法の制定はその画期であった。

この間、帝国憲法は天皇の権力を絶対視し、国民はその臣民とされ思想信条、政治的自由はなかった。一九一七年のロシア革命は人民主権の思想をあらたにもたらし一九二二年日本共産党が誕生したことは日本人民の本格的なたたかいの開始となった。

これに対して支配勢力は「治安維持法」をもって襲いかかり、運動の一切の芽を摘もうとした。

治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟兵庫県本部はこのほど結成三十年の記念出版として『弾圧に抗して歴史を拓いた人たち追悼県下治維法犠牲者』を刊行した。

本書は、兵庫県下の「治維法」に関わる全ての事件と人々を洩らさず記録にとどめるという壮大な意図で編集されて、可能な限りでその目的を果たした貴重な資料の集大成となっている。

本の構成は、第一部=弾圧事件と犠牲者、第二部=弾圧犠牲者の肖像、付録、となっていて、第一部はさらに五章に分かれていて初期から太平洋戦争下までを事件ごとに区切りをし、さらにその区分ごとに起きた事件を詳述、検挙者などの関係者の氏名・略歴、事件との関わりを記述している。

第一部の各章の見出しは次のようになっている。

•治安維持法制定本来の目的
•侵略戦争反対闘争の弾圧大陸侵略開始と反戦運動の高まり
•人民戦線弾圧事件
•日中戦争下の活動と弾圧
•太平洋戦争下の弾圧

第一章のⅠでは「治安維持法制定とその変容・改悪」の節を設けて「治維法」成立のいきさつから乱用、廃止にいたる経過を概括していて「治安維持法」とは何であったのかを簡潔に知る助けとなっている。

本書の真価は治維法下の諸事件を概括しただけではなく、検挙者などの名簿とその略歴を紹介したことで、その人数は五百六十一人に及んでいる。自由と民主主義、社会進歩のためにたたかった先人の名前が全体として明らかにされた意義は大きく、後に続く者への大きな励ましとなっている。

第二部「弾圧犠牲者の肖像」は、本書の編者の一人である戸崎曽太郎氏が主な犠牲者について詳述したもので、先人が治維法下でいかに生きたたかったが活写されていて、読み物としても興味が尽きない内容となっている。

取り上げられた人物は、県下の農民運動の先駆者・長尾有から始まり、戦後代議士になった井之口政雄、音楽家・須藤五郎、七〇年代に革新神戸市長となった宮崎辰雄、作家の椎名麟三、俳優・永井智雄、画家・小松益喜、哲学者・三木清、など二十数人が紹介されている。これらの人々のたたかいと業績を深く知ることは県下の革新運動の発展にとって欠かせない力となるものである。

付録として、この間の年表や「治安維持法(抄)」が収録されていることも、本書が座右の書として活用する上で有用な配慮となっている。

序文を書いた林直道大阪市立大学名誉教授は「最近では憲法を改悪し、そのさい実質上治安維持法に近い社会運動取り締まり法規を新たに制定しようという動きが出ています。われわれは、そうした企ては決して国民のためにならないと声を大にして訴えたい」と指摘。本書が読み継がれていく今日的意義を明確にしていることが大切である。

A5判302p. 頒価1,000円
【問い合わせ】治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟兵庫県本部☎078-351-0677

(2013年2月10日付「兵庫民報」掲載)

日付順目次