「マルクスの思想を今に生かす」(鰺坂真関西大学名誉教授と牧野広義阪南大学教授の編著)が発行されました。兵庫県勤労者学習協議会などの主催で4月7日、記念講演会をひらきます。執筆者のひとり石川康宏神戸女学院大学教授に、経過と思いを聞きました。
資本主義の根本に立ち返る
神戸女学院大学教授 石川 康宏さん
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学習の友社発行 定価2,730円 |
「まえがき」に鰺坂真先生が「21世紀において、マルクスの思想をより豊かに生かそうというのが私たちの意図」と書いておられますが、リーマンショック後の世界経済危機であったり、3・11後の日本の政治の動きであったりと、いま様ざまな形で社会のゆきづまりが現れていると思います。それを、多くの人たちの幸せを目ざす方向に打開するには、マルクスの思想と学問の成果に立ち返ることが大切だ、それをみなさんにお話ししたいと思っています。
執筆者8人は大阪で毎月ひらいている現代唯物論研究会のメンバーです。
これまでに『現代に挑む唯物論』(96年)、『史的唯物論の現代的課題』(01年)、『ジェンダーと史的唯物論』(05年)を出し、今回が4冊目です。いずれもマルクスの現代的な発展を意図しており、幅広い分野の共同研究となっています。
原稿を書き始めたのは3・11前で、そのとき私はマルクスの資本主義発展論について書いていました。ところが震災が起こり、被災者の苦難に心をよせない政治が展開され、その背後にある、大惨事に便乗して利潤拡大を追求する財界の動きが明らかになってきました。そういう状況の変化にあわせ、内容を大幅に変えました。
マルクスは、①資本主義は私的利潤の追求を原動力とすることで飛躍的に生産力を発展させる。②しかし同時に、恐慌や環境破壊のような社会的害悪も生み出さずにおれない。③だから、それらの害悪を取り除こうとする労働者らの取り組みが発展する。④それが資本の利潤追求に人間的なルールを課していく。⑤そうした改革の積み重ねの中で、未来社会への移行を準備させる、と考えました。
私は、いま日本や世界に起こっているゆきづまりや「原発ゼロ」「ウォール街を占拠せよ」などの新しい取り組みを正確にとらえるには、このような資本主義の仕組みの根本に立ち返ることが不可欠だと思っています。
70年代初頭、全国民の40%以上が社会党や共産党を軸とする、いわゆる「革新自治体」に暮らしていました。その革新上げ潮の時代が全国の労働者学習運動にとってもピークの時代となりました。これはきわめて教訓的なことです。
やはり「知は力」、多くの人が学ぶことなしに政治や社会を変えることはできません。兵庫県学習協には、すべての市民を視野に入れて、社会の仕組みや政治転換の方向を、社会科学にもとづいて学びあう、そういう学びのセンターとしての役割を期待しています。
そのためには、たくさんの市民団体、個人、知識人が力をあわせ、学習協の取り組みを励ましていく必要があるでしょう。
「マルクスの思想をいまに生かす」発行記念講演会
4月7日(土)14時/演題①「マルクスの資本主義分析と『震災後の新しい日本』」石川康宏神戸女学院大学教授/②「多数者革命と議会制民主主義」長澤高明立命館大学非常勤講師/神戸市勤労会館405・406号室/無料/学習の友社発行の同著は定価2,730円/☎078・335・3770
(2012年4月1日付「兵庫民報」掲載)