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2012年1月29日日曜日

兵庫生存権裁判の展望

弁護士 松山 秀樹

生存権裁判兵庫訴訟は、70歳以上の生活保護受給者に対して1960年以来、長年にわたって支給されてきた老齢加算の復活を求めて、原告9名が、神戸市、尼崎市を被告として07年5月、神戸地方裁判所に提訴しています。

全国で同様の訴訟が提起され、東京高裁では原告らの請求を認めない判決が出されましたが、福岡高裁は10年6月、老齢加算廃止処分を違法として原告らの請求を認める判決を出し、現在、両判決が最高裁に上告されて、判断を待っている状況です。

ところで、厚労省が、老齢加算を廃止した理由は、70歳以上の高齢者は老齢加算に見合うだけの特別の支出をしていない、というものです。

文書提出命令への最高裁不当決定

その根拠として厚労省が持ち出しているのが、99年度全国消費実態調査と呼ばれる全国規模の統計調査のデータを、厚労省が独自に集計(特別集計)した結果です。

しかし、厚労省は、特別集計の基になった調査データの内容は一切明らかにしていません。特別集計の信頼性が否定されれば、老齢加算廃止の根拠がなくなるので、特別集計の内容を検証するために、調査データを明らかにさせることが重要です。

そこで、兵庫訴訟だけではなく、各地の生存権裁判で、この調査データを国に提出するよう求めて文書提出命令の申立をおこないました。

そして、神戸地方裁判所は、全国ではじめて10年8月18日、原告らの文書提出命令申立を認めて、国に対して調査データを提出するように命じる決定を出しました。これに対し国が不服申立をしていましたが、11年8月5日、大阪高裁は国の不服申立を認めて、逆転して、文書提出命令申立を却下する決定をしました。

この決定に対し、原告らは最高裁に不服申立をしていましたが、最高裁は11年12月15日、原告らの不服申立を認めない不当な決定を出しました(なお、この最高裁の決定は、あくまで文書提出命令申立に対する判断であって、老齢加算廃止が適法か違法かを判断したものではなく、生存権裁判は、今後も神戸地裁でつづきます)。

厚労省が、老齢加算廃止の根拠としている特別集計の信頼性を検証するために、特別集計の基になった調査データを提出させることを認めなかった大阪高裁、最高裁の判断は、法律の理屈以前に非常識であり、到底万人を納得させるものではありません。

国は、既に調査データを利用して特別集計をおこない、それを自分に有利な証拠として利用しているにもかかわらず、訴訟の当事者である原告に、その検討の機会すら与えないのは不正義であり、不公正です。

最高裁の不当な決定によって、神戸地裁での生存権裁判では、今後、特別集計のもとになったデータなしで、老齢加算廃止の違法性を主張していくことになります。

しかし、老齢加算廃止を違法と判断した福岡高裁判決でも、調査データ自体は証拠で提出されておらず、調査データなしでも工夫を凝らした審理をすることで、勝利判決を勝ち取ることは充分に可能であると思います。

今後の神戸地裁の審理では原告本人尋問、原告宅の検証、原告らの健康調査など、大きな山場を迎えます。

さらに、福岡高裁判決について、最高裁では、今年2月24日に弁論がひらかれる予定です。福岡高裁判決を維持した判決を最高裁に出させるために、老齢加算復活を求める全国からの訴えを最高裁に届けていく運動の盛り上がりも、非常に大事です。

(2012年1月29日付「兵庫民報」掲載)

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